平成22年6月 第2403号(6月2日)
■新刊紹介
「人間の建設」
小林秀雄・岡 潔 編
「世界的天才数学者とあの小林秀雄による史上最強の雑談」と本の帯にある。これに、魅せられて読む。
〈本書は『小林秀雄全作品』(新潮社版第六次全集)より、「人間の建設」及びその注釈を底本とした〉。いわゆるリバイバル作品。
いろんな読み方、というか関心を持つところは人によって様々だ、と思った。解説を書く茂木健一郎(脳科学者)と、ぼくとも違った。役者は大違いだが…。
茂木が関心を持った箇所。〈岡 どうも前頭葉はそういう構造をしているらしい。言い表しにくいことを言って聞いてもらいたいと言うときには、人は熱心になる。それは情熱なのです…〉
二人の関心が重なり合うところもあった。〈岡よい批評家であるためには、詩人でなければならないというふうなことは言えますか。小林 そうだと思います。岡 本質は直感と情熱でしょう。小林 そうだとおもいますね〉
ぼくが強い関心を寄せたのは、このくだり。〈小林 いまの酒を日本酒といっておりますけれども。岡 あんなのは日本酒ではありませんか。小林 日本そばと言うようなものなんです。昔の酒は、みな個性がありました。菊正なら菊正、白鷹なら白鷹…〉
小林秀雄はときどき読み返していたから身近にいた。岡潔には思い出がある。学生時代、奈良から遊学していた風呂屋の息子は「岡潔は、うちの風呂屋に来ていた」が自慢だった。
読みながら、ときどき、「これは、どっちの発言か?」と読むのを止め、発言の頭にある名前を確認した。大批評家と大数学者の発言が入れ替わっても違和感はない。そして、二人の言葉は半世紀経ても全く古びていない。二人が「知の巨人」たる所以である。
「人間の建設」 小林秀雄・岡 潔 著
新潮文庫
п@03―3266―5111
定価 362円+税
新潮文庫
п@03―3266―5111
定価 362円+税