平成22年6月 第2403号(6月2日)
■「本を読む」で自信つける
神田外語大初年次教育 教員と面談、少人数授業
この時期、どの大学でも新入生を迎えて初年次教育を行っているのではないだろうか。文科省の調査では、7割以上の大学で初年次教育が導入されているという。中身は、レポート・論文の書き方、ディスカッションや発表の技法、大学教育全般に対する動機付け、図書館の利用法などさまざま。神田外語大学(酒井邦弥学長、千葉市美浜区)が行っている「本を読む」というユニークな初年次教育を取材した。
初年次教育は、高校のカリキュラムの多様化が進み、大学進学率が上昇、大学生の「学力低下」がいわれ、導入が進んだ。自分で問題を発見し解決していく学問的スキル、他人と議論し自分の考えを伝えるコミュニケーション能力、学習意欲や目的意識を、それぞれ高めるのがねらいだ。
神田外語大学が05年から初年次教育の一貫として始めたのが「本を読む」という少人数の授業。新入生を中心に(履修は4年生次まで可能)、前期と後期のいずれかから1回、受講できる。
担当者のひとり、国際コミュニケーション学科の土田宏成准教授が説明する。「教養教育を担当する教員の集まりで、初年次教育の基礎演習の授業に加えて『本を読む』講義を図書館と連携してやろう、となった。本を読むことで、書くことや表現する力を高めるきっかけになれば、という思いから始まった」
学生は、課題の本が出ているシラバスを事前に見て、読みたい本(と教員)を選び、履修登録する。先生1人に3〜4人の学生がつく。教員と学生は履修の間、3、4回面談して、本の内容などを話し合う。面談は授業の空き時間や昼休みなどになることが多い。
昨年の課題図書は「チェ・ゲバラの遥かな旅」(戸井十月、集英社文庫)、「フォト・リテラシー 報道写真と読む論理」(今橋映子、中公文庫)、「『かわいい』論」(四方田犬彦、ちくま新書)など。
「読み終わったら学生にレポート(1200字)を提出させ、担当の教員は添削して学生に返します。受講した学生の多くは、本を読むことに興味を覚えるだけでなく、やればできるんだ、という自信が生まれる、といっていました」と土田。
受講した学生の声を聞いた。受講動機は「普段あまり本を読んでいなかったから。これを機会に何か本を読んでいきたいと考えた」、「本を読むのが苦手だった。本を読まなければならない環境に立たされることが第1歩だと思って受講した」
結果については、「一緒に読み、内容について話すのは始めてだったが、良かった。これからは積極的に図書館を利用したり、家の本を読んでみたい」、「数回の面談を、自分と先生の都合さえ合えばどの時間でもできたことが良かった。本の内容以外にも様々な話ができ、慣れない大学の授業について話せた」
学生の書評(レポート)は、これまでまとめて小冊子にしていた。それが、今年度から、優れた学生の書評は教員らの書評などをまとめた「本はおもしろい」(同大図書館発行)という本に掲載することになった。
土田准教授は「本への収録は、学生の自信にもつながります。入学者約900人に対して、『本を読む』の受講者は60人とまだまだ少ない。もっと増やしたいのですが、指導する教員の数の問題もある。将来的には入学者全員に受講させるのが夢です」とあくまで意欲的だった。