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教育学術オンライン

平成22年6月 第2403号(6月2日)

高めよ 深めよ 大学広報力 〈72〉 こうやって変革した69
 女子大であり続ける 
 ロゴとスローガン策定 女性の発想を育てる 
 相模女子大学

 女子大を取り上げるたびに、「女子大、冬の時代」と書き出すが、今回はやめにした。共学化の流れに棹差し、「これからも女子大であり続けるためのブランド戦略」を始めた女子大がある。今年度、創立110周年を迎えた相模女子大学(谷崎昭男学長、神奈川県相模原市)。110周年を機に「女子大学であること」を前面に打ち出したブランド戦略を策定、新しいロゴマークとスローガンを発表した。「女子大学は、えてして前時代的なものととらえられることも多い。しかし、先行き不透明な時代には、逆に女性ならではの発想や感性が求められる」と学長の士気は高い。今回のブランド戦略のねらい、そして女子大の生き残り戦略などを学長らに聞いた。
(文中敬称略)

ブランド戦略展開

 相模女子大学は、1900年に東京・本郷に開校した日本女学校を起源とする。1909年、帝国女子専門学校を開設(現在の文京区大塚付近)、日本高等女学校を附設した。
 1903年に公布された専門学校令の適用を、日本女子大学校(日本女子大)、女子英学塾(津田塾大学)、青山女学院英文専門科(青山学院)についで4番目に受けた。
 はじめに、いま、女子大が置かれた立場、現状について触れたい。女子大が減っている。ここ10年間で約2割が男女共学化した。少子化で定員割れが起き、共学化で受験生や学生の増加をねらう。一方で、女子の間に、一般職への就職のイメージが強い女子大を敬遠する傾向があるという。
 共学化の成功例として語られるのが武蔵野大学(西東京市)。元々、武蔵野女子大だったが、04年の共学化の前年に大学名から女子を外し、薬学部などを備えた総合大学に脱皮。03年の約6000人の志願者が1万6000人に急増した。
 学長の谷崎が相模女子大学を語る。「創立者は日本女子心術修業に関する談話の中で、『固き心を以って、やさしき行をせよ』と説き、女子にも大学教育も授けるべきだと帝国女子専門学校を設立。我が国の女子大学教育の原点のひとつで、本学は、この源流を脈々と受け継ぎ、多くの有能な人材を輩出してきました」
 こう付け加えた。「女子大学は、共学の学校では摘み取られかねない女性ならではの発想や感性を育てるのに最適な場なのです。本学が時流に乗ろうとしないで、頑固を通そうとするからでは決してありません」
 1946年、キャンパスを神奈川県相模原市に移転した。旧陸軍通信学校の跡地だった。49年に相模女子大学(学芸学部)を開設。2000年に創立100周年を迎え、08年に大幅な学部学科再編を行った。
 学芸学部人間社会学科を人間社会学部社会マネジメント学科と人間心理学科に、学芸学部食物学科食物学専攻を栄養科学部健康栄養学科、管理栄養専攻を管理栄養学科に、それぞれ改組。3学部体制となった。
 相模野のおもかげを残す広大なキャンパスには、黒松、いちょう、ヒマラヤ杉などが生い茂る。正門からまっすぐにのびる銀杏並木は季節によって美しい情景を醸し出す。映画やテレビのロケ地として使われるという。
 現在、学芸学部、人間社会学部、栄養科学部の3学部に3343人の学生が学ぶ。併設する短期大学部、高等部、中学部、小学部、幼稚部も同じキャンパスにある。広さが17万3000平方メートル、と聞いて納得。
 どんな学生が多いのですか?と谷崎に問うた。「うちの学生は、真面目というのか、器用に振舞えないところがある。それが、就職で企業に入ると好感をもたれるようです」と返ってきた。 
 ブランディングプロジェクトを立ち上げたのは08年度。狙いを谷崎が話す。「ブランディングの基本的な方向性は『これからの時代における女子大学の存在価値を再規定する』こと。即効性は期待せず、10年先を見据えています」
 ロゴマークは、葛西薫、スローガンは、前田知巳という著名なクリエーターに依頼。ロゴマークのデザインには『始まりから未来への想いをつなぐ』という思いが込められた。スローガンは『見つめる人になる。見つける人になる』に決定。
 新ロゴ・マークとスローガンは、3月26日、同大で開いた記者発表会で披露された。発表会は、案内状発送から当日の司会進行まで学生が仕切った。「ブランド戦略は、学生自身も含めてそのことを再確認し、外に向けて『女子大学』を前に出してアピールしていこうということから」(谷崎)
 今後のブランド戦略の取り組みについて、ブランディングに関わった学芸学部教授の原 龍一郎が話す。原は大手広告代理店出身。
 「今回のブランディングのミッション(使命)は、地域の未来を女性ならではの着眼点で発想し貢献する女性を育てる、です。学生主体の記者発表のように、大学の運営や広報活動に学生が参加することで、発想力を育てて生きたい」
 発想力にこだわりがある。谷崎は「女性の発想力を育てるのは女子大であって、共学は、その芽をつんでしまう」。発想力を育てる『発想力養成講座』のカリキュラムを整備する計画があり、2年後を目途に開始するという。
 ブランド戦略の一環として、地域や企業と連携した取り組みがある。「民間会社と共同で行った和菓子の開発や、福島県や三重県などで行う農業体験学習を通じて地域との交流をもっと深めたい。後者では、日本の農業や環境問題、過疎化、高齢化などの社会問題を感じとってほしいという思いもある」(原)
 地域貢献には歴史がある。「市民大学」という公開講座は、1965年に第1回を開催。「当時は全国でまだ例がなく、大学開放あるいは生涯学習時代の今日を先取りするこころみであったことは、ただ伝統に甘えるのではない、本学の在り方を物語るもの」と谷崎。
 同大も少子化の影響を受けて、ここ3年は、受験者数は低迷が続き、厳しかったという。上向きに転じたのは、08年の大幅な学部学科の再編から。同年には「社会マネジメントを担える女性の育成」が文科省の教育GPに採択された。 
 谷崎は「女子大から共学へ移行した大学は、近年いくつもありますが、本学が女子大学の旗を下ろすことは今後もないでしょう」ときっぱり。
 「女子大学連盟という団体があるが、最近は目に見える活動をしていない。これを活性化したいと考えている」とも。女子大であることを武器に、ブランド戦略で生き残りを図る相模女子大。女子大活性化のフロントランナーとしての活躍に満腔のエールを送りたい。

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