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平成22年5月 第2402号(5月26日)

オープンキャンパス考 -上-
  「大学の何を伝えるか オープンキャンパスの成り立ち」  


麻布大学 小島理絵

  夏を迎え、各地での「オープンキャンパス」が目白押し。メディアからは伝わらないキャンパスの「生」の雰囲気を、受験生が実際に体験してみるチャンス。いま、単にイベント化しているようにもみえる「オープンキャンパス」について、もう一度その足元から考えてみる。麻布大学の小島理絵氏にご寄稿いただいた。

 18歳人口の減少にも関わらず、大学数は年々増え続けている。大学進学は売り手市場から買い手市場へと変化し、多くの大学が学生募集のための広報活動に、より一層の力を入れるようになった。
 学生募集の手法は、大学案内・入試案内などのパンフレット作成、ウェブサイトでの情報公開、雑誌・新聞への広告掲載、交通広告、学外で行われる合同説明会への参加、高等学校での出張模擬授業など、多岐に渡る。中でも、「実際に大学の雰囲気を掴むことができる」「受験生の進学意識が高まる」として効果をあげているのが、大学内に受験生を招き入れ、見学・相談に応じる「オープンキャンパス」である。
 受験生自身が主体的に参加することはもちろん、高校の教員や受験産業界も生徒に対して積極的にオープンキャンパス参加を促している。
 大学、受験生双方から重要視され、その開催と参加が当たり前になったオープンキャンパスだが、いつどのように始まり、全国的に広がってきたのだろうか。
 今回は、筆者が桜美林大学大学院の修士論文にまとめた調査結果をもとに、オープンキャンパスの歴史を追ってみたい。
 なお、当調査は、文献調査の方法により、進学情報誌の「螢雪時代」(旺文社)、業界専門誌の「カレッジマネジメント」(リクルート)、「BETWEEN」(進研アド)、「IDE――現代の高等教育」(IDE協会)、「大学時報」(日本私立大学連盟)、その他一般メディア(新聞・雑誌等)が掲載したオープンキャンパス関連記事を収集し、それらの資料からオープンキャンパスの誕生を探ったものである。
■「オープンキャンパス」という言葉
 オープンキャンパスは、英語としての意味はなさない。アメリカなどでは「キャンパスビジット」などといい、その開催方法も日本とは異なる。
 日本では、年に数回の日程を設けて開催するイベント形式が一般的だが、アメリカの大学では毎日、見学を受け付けており、予約も必要ない。在学生ガイドが常駐しており、にこやかに迎え入れ、キャンパス内を案内して回る。在学生ガイドは成績優秀者のみが就ける業務で、誇り高い役割なのだという。
 もちろん、これは一例であり、個々の大学によって若干、内容が異なるのであろうが、日本におけるオープンキャンパスとは大きな違いがあり、「オープンキャンパス」という言葉は、日本で作られた言葉、和製英語なのである。
■「オープンキャンパス」名付け親
 それでは、受験生を対象とした大学内での進学相談イベントの名称として「オープンキャンパス」をわが国で最初に用いた大学はどこか。筆者の調査では、螢雪時代と大学時報の記事を中心に検討した結果、立命館大学であると分かった。
 1988年、初めて立命館大学のイベント名称として使用された「オープンキャンパス」という言葉は、その後近隣の大学を中心に、他校でも用いられるようになった。
 さらに、京都府内の大学が一斉にオープンキャンパスを開催する「オープンキャンパスin Kyoto」を契機として、受験産業界、高等教育関係者など、全国的に広く知られる呼称となっていった。螢雪時代の特集の見出しにも、年を追うごとに「大学見学会」といった注釈なしに「オープンキャンパス」という言葉が用いられるようになっている。
 1990年代の半ばには、新聞、雑誌記事の特集でも一般的に用いられるようになり、現在、受験生を対象とした大学内での進学相談会の総称として周知されるようになった。
■「オープンキャンパス」生みの親
 「オープンキャンパス」と呼ばれる以前から、受験生を対象とした大学内での進学相談会は開催されていた。では、日本初の開催大学はどこか。
 これは、カレッジマネジメントと螢雪時代の記事から、1978年に独自の「進学相談会」を開催した、立教大学であることがわかった。当時は「進学相談会 on Campus」という名称であった。1980年代前半から、立教大学と同様に大学内での進学相談会を開催し始める大学が増え、東京大学でも、2000年に全学的なオープンキャンパスを開始した。
 オープンキャンパスの生みの親である立教大学と、名付け親である立命館大学は、以前から積極的かつ戦略的に大学改革を進めてきた大学である。立教大学は、進学相談イベントを始めると時を同じくして、社会人入試を行っており、これも我が国で初めての取り組みであった。立命館大学も自大学の入試制度改革に注力し、その取り組みは業界専門誌でも大きく扱われてきた。
 2校がオープンキャンパスの鍵であると明らかになったことは、オープンキャンパスがその萌芽期から、大学のマネジメントにおける戦略的な発想に基づいて構築されていたことを物語っているといえるのではないだろうか。
■オープンキャンパスの役割
 1980年代初頭からオープンキャンパスを始めた大学の多くは、18歳人口の増加期の中で、また偏差値という一点を基準に進路選択をする受験生が増加する中で、自大学で学ぶことに対して高い意欲を持つ学生を集めるため、自大学の情報をより詳しく、より正確に伝える手段を模索した。志望校として選択してもらうために、理解してほしいことは何なのか、自大学の何を伝えたいのかということを真剣に考えていた。言い換えればそれは、「どんな教育を行いたいのか」「どんな大学として社会に存在したいのか」ということを自らに問う作業でもあった。オープンキャンパスは学生募集広報の一手段という枠を超えて、自大学の立ち位置を見直す手段でもある、と言っても、決して過言ではないだろう。
 最近では、スタンプラリーやゲームによる高額商品のプレゼント、学食メニューにない食事やデザートの提供、交通費・宿泊費の全額負担、バスによる長距離送迎など、一部のプログラムについて「過剰なサービス」と指摘される内容もある。
 しかし、奇抜なプログラムで受験生の関心を引き、参加者を集めることではなく、原点に立ち返って自大学の教育、社会的存在意義や役割を見直し、それを受験生にしっかりと伝えていくことがオープンキャンパスのもつ役割である。
 では、どのように伝えたらいいのか。筆者は、「在学生」が鍵となる、と考えている。在学生の姿を通して、雰囲気や魅力といった、参加者個人の感受性に拠るものも含めて、数値や言葉で表すことのできない大学が持つ本当の力が伝えられると考えている。
 逆を言えば、良い部分も悪い部分も、伝わってしまうのである。「オープンキャンパスは着飾った姿だから、良いところしか見せていない。行っても意味がない」と言う人もいるが、在学生の姿は、決して偽ることができない。
 次回は、在学生をオープンキャンパスに巻き込んでいる大学の事例をみながら、最近の傾向や今後の課題について述べたい。                                              (つづく)


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