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平成22年5月 第2400号(5月12日)

新刊紹介
 「戦後日本の教育実践リーディングス・田中裕一」
  和井田清司 編著

 あの時代に、こうした教師がいたことに驚愕し、教えを受けた生徒に羨望した。同僚の教師が称したように〈超ウルトラの先生だった〉
 著者は〈熊本の中学教師・田中裕一(1930―2003)という一教師の実践を記録し、そのことを通して教育実践における今後の参照軸の一つを提示することを企図した〉。その狙いは、見事に結実した。
 田中は、日本の公害である水俣病の授業の実践者として著名だ。水俣病授業の後しばらくはテロの動きもあって〈下着を毎日新しいものに替えて家を出たという〉
 この水俣病授業の延長線上で〈1980代の環境教育の国際敵意動向に視野を広げ、芸術、科学、労働を“総合”し、環境教育実践を高い水準に引き上げた〉
 優れた実践者であり、学問的探求者であり、社会運動家だった。第1部は教師としての足跡と実践、背景、2部は田中のエッセイ、3部は田中の環境教育学の紀要論文を掲載した。
 エッセイは鋭いが、たおやか。だが、その標的は身震いするはずだ。〈この国では、CO2を減らすために原発40基が必要という。雀を撃つにミサイルを持ち出す類で、水虫は治ったが命がなくなったという処方にひとしい〉
 〈売買春の基本は、この世界の構造の中の性差別と暴力の価格標示に過ぎない。戦争の引き金は、それを直ちに無残な女性の命運として現出させる〉
 県教組の役員を務めたが、組合が選挙運動することには猛反対した。「思想信条の自由」が守れないという理由だった。こうした田中のような本物の教師がいなくなった、この時代は不幸だと想った。

 「戦後日本の教育実践リーディングス・田中裕一」 和井田清司 編著
 学文社
 п@03―3715―1501
 定価 3000円+税

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