平成22年5月 第2400号(5月12日)
■高めよ 深めよ 大学広報力 〈70〉 こうやって変革した67
移転で改革、伝統生かす
創立125周年 附属校強化 「遠い」ハンディは克服
中央大学
少子化を背景に学生確保をねらって大学の都心回帰が進む。そうしたなか、東京・神田駿河台から緑豊かな多摩地区へ移転して30年を超えるのが中央大学(永井和之学長、東京都八王子市)。郊外への移転によって、文系五学部が1年生から4年生までがひとつのキャンパスで学ぶようになった。移転の光と陰をいう卒業生もいるそうだが、「教育、研究、課外活動の一体化という理想を実現できたということは、遠いというハンディを十分に克服した」という。法曹界に強いという伝統は健在だし、今年は創立125周年の記念事業や行事が目白押し。移転後も「白門」のよき伝統を守り、さらに新たな改革で存在を強めている。移転後の数々の改革と現在、そして、今後について、中央大学の理事らに聞いた。 (文中敬称略)
司法試験合格者2位 「法科の中大」健在
中央大学は、1885年に英吉利法律学校として設立された。当初は英国法の教育機関だったが、国内法も教えるようになり、校名も東京法学院、東京法学院大学と変更。1905年に経済学科の設置によって中央大学と改称した。
1978年に法律、商学、経済、文学の文系四学部が多摩へ移転、93年に総合政策を設置。現在、文系5学部が多摩キャンパス、理工学部が文京区の後楽園キャンパスで、六学部・約2万6000人の学生が学ぶ。
伝統的に法曹界や政官界官にOBが多く「法科の中央」といわれる。出身大学別の司法試験合格者数は、70年までずっとトップで、70年代から80年代にかけて東京大学とトップを争い、「中東戦争」と称された。
その後、やや低迷して、09年度の旧司法試験では3位に。しかし、新司法試験制度のもとで実施された第1回目の司法試験では、同大学法科大学院(ロースクール)出身者が1位となり、第2回〜4回の新司法試験でも東大に次いで2位に。広報担当の常任理事、大久保信行が説明する。
「ロースクールの講師は法曹界の実務者が多く、合格した人がすぐに教えに来てくれたり後輩の面倒見がいい。法曹に強い伝統の力はもちろんですが、手厚いトータルなプログラムが貢献しているのではないか」
司法試験と並び公認会計士試験の合格者数も早慶に次ぐ3位を誇る。これは同大経理研究所によるところが大きい。
経理研は、学生及び卒業者向けに日商簿記検定、公認会計士試験などの資格取得講座を開講。どの学部・学科でも受講できる。経理研を受講するために中大を志願し、入学する学生も多いという。
資格試験に強いというのも中大の特徴だ。「司法試験や公認会計士などには今後も力を入れていきたい。あくまで学部が基盤で、それに大学院、専門職大学院が並立、この3つの総合力で、中大の個性、強みを示していきたい」(大久保)
さて、大学の都心回帰は、05年、東洋大学の文系5学部が埼玉・朝霞市から東京・白山に移転、この年の志願者が急増したことで注目された。その後、立正大学、共立女子大などが続いた。中大は多摩地区に留まっている。移転後の改革について大久保が話した。
総合政策学部を新設
「93年に新学部(総合政策学部)を設置しました。『政策と文化の融合』を理念として、外国語教育を重視。様々な第二外国語の授業があり、独語・仏語・中国語・朝鮮語・アラビア語・マレーインドネシア語・露語・ペルシャ語の8つから選びます」
FLP導入で成果
03年度からは各学部の教育に加えて、学籍は各学部に置きながらも学部横断的に設置された課程に所属するファカルティリンケージプログラム(FLP)を導入し、学際分野でも実践的教育を行う。大久保が続けた。
「FLPは、学部に所属しながら学際的にFLPの専攻テーマについて学びます。各プログラム定員は40人で、エントリーシート、1次に書類選考、2次に面接試験で選抜。2年生から3年間、学部ゼミとは別に、FLPのゼミに所属。修了者には卒業時に修了証が授与されます」
創立125周年を迎え、「大学だけでなく、総合学園」を強調する。それが、付属中学・高校の強化。中大附属中・高校、中大杉並高校、中大高校とあるが、09年から横浜山手女子学園が系属化され、10年、中央大学横浜山手中学校・高等学校に校名を変更した。
「神奈川県に拠点の付属を持ちたかったこともありますが、3年間でなく、中高一貫の6年間を考えました。法律も理工も、中学レベルで学び、6年間の自由な教育で個性を伸ばす教育をやっていきたい」(大久保)
中大のような大規模ブランド大学には、中小規模の私大に参考になるようなことを取材している。中大では「広報活動」が参考になった。入試センターにいた経験のある広報室長(取材当時)の外村幸雄が語る。
「志願者は、全国から来ますが、昨今の景気や少子化、地方の国立大学が入りやすいということもあって変動しています。受験生に伝えるのは、大学に入って、何を、どう勉強して、自分の将来を見つけるか、です。
高校訪問では、全国各地の高校に足繁く通います。中大というと法律家の予備校のイメージがありますが、高校側の要望を聞きながら、テクニックを労せず、真摯にきめ細かく教育プログラムなどを説明しています」
グローバル化に傾注
昨年12月から公式ウェブサイトのほかに「CHUO ONLINE」をスタートさせた。「高校生は、大学選びで、ウェブをよく見ます。どんな先生が、どんなことを教えてくれるか、先生を前面に出して、研究力や教育力を伝えています」(外村)
現在、力を入れているのがグローバル化。創立125周年を迎え、東アジアからヨーロッパへ「知の架け橋」を築いていく学術シルクロード構想を進める。「CHUOONLINEは英語版もあり、国際広報を意識しています」と外村。
今年の私大の受験者数は、明治大学が、それまでトップの早稲田大学を抜いて話題になった。中大は6位、かつて、ともに神田駿河台にあり、一方はそのまま、一方は郊外に移転した。そのへんを大久保に聞いた。
「明大は学部に(難易度の)差がないので併願が多く、中大は学部によって差があるので併願が少ない、ということ」と平静を装いつつも、「本学は、英訳できないような学部はつくりません。法、文、商、経済というように短い文字の学部を堅持、『法科の中央』という伝統も健在です」とライバル心ものぞかせた。
大久保は、今後を語る。「導入したFLPは、新学部開設と同じくらいの力をかけ、そのくらいの効果を上げています。新学部開設は、これまでも、これからも考えています」。中大は、伝統を堅守しながら、新学部構想などの改革に挑戦する。