平成22年4月 第2399号(4月28日)
■決算書の基礎知識 財務を知って業務に活かす B
「消費収支計算書を読み解く」
3.消費収支計算書を読み解く
(1)消費収支計算書の計算構造と内訳表
消費収支計算書は、毎会計年度、当該会計年度の消費収入および消費支出の内容および均衡の状態を明らかにするものである。
消費収入は、当該会計年度の帰属収入(学納金、寄付金、補助金等の学校法人の負債とならない収入)を計算し、基本金(施設等の資本的支出の価額等)に組み入れる額を控除して計算する。
一方、消費支出は、当該年度において消費する資産の取得額および用役の対価に基づいて計算され、消費収支計算は前記により計算された消費収入と消費支出を対照して行われる。(図参照)
消費収支計算書には、資金収支内訳表と同じように、部門別(大学は学部単位ではなく大学単独)の消費収支内訳表が添付される。
(2)基本金の種類と仕組み
学校法人が教育研究活動を行っていくためには、校地、校舎、機器・備品、図書、現金・預金などの資産が必要不可欠である。これらを保持し、維持していかなければ教育研究機関としての機能は果たし得ず、こうした学校運営に必要な資産のうち、継続的に維持していくべき資産の額を観念的な金額で表したものを基本金と定義されている。基本金は、学校法人の永続性を確保するために必要な資本的支出が、自己資金によって賄われているかを明らかにするためのものである。
なお、学校法人会計基準第30条第1項では、基本金を四つに分類しており、第1号基本金はすでに自己資金で取得した校地、校舎、機器・備品などの取得価額、第2号基本金は将来固定資産を取得する目的で留保した預金などの資産の額、第三号基本金は奨学基金、研究基金などの資産の額、第四号基本金は学校法人の円滑な運営に必要な運転資金の額と定義している。
この中で第1号基本金は、すでに固定資産に転化したもの(土地、校舎、機器備品等に変化してしまっているという意味)であり、消費できる資金ではなく、ここが「観念的」という意味である。また、第3号基本金は基金の運用果実のみ、しかも組み入れ目的に対してのみ使用できる資金であり、さらに第4号基本金は学校法人の運営が破綻した場合の一ヵ月相当の恒常的支払い資金である。
(3)消費収支計算書における収入・支出記載科目
消費収支計算書における記載科目は、その多くが資金収支科目と同じであるが、資金収支科目では「学生生徒等納付金収入」や「人件費支出」といったように科目名称に「収入」もしくは「支出」という表示が付されているのに対し、消費収支計算書の科目では「学生生徒等納付金」「人件費」のように、多くの科目で収入・支出の言葉を使わず、二つの計算書では表示上区分している。
なお、資金収支計算書にはない消費収支計算書独自の科目には、収入科目としては、寄付金の小科目として土地・建物・機器備品等の受贈による「現物寄付金」がある。また、大科目としては「資産売却差額」があり、これは資産を売却した場合、売却額は資金収支計算書の「資産売却収入」に売却収入額全額が計上されるが、消費収支計算書には当該資産の帳簿残高を超える場合は売却益のみが「資産売却差額」として計上される。
一方支出科目では、人件費の小科目に「退職給与引当金繰入額」があり、これは毎年における退職金の増額負担額を負債として計上するものである。さらに、教育研究経費および管理経費の小科目に「減価償却額」があり、これは毎年減価する固定資産の額を計上するもので、退職給与引当金繰入額も減価償却額のいずれも資金支出を伴うものではないため、資金収支計算上の取引にはならない。さらに、収入科目の「資産売却差額」(差益)の逆のケースで、売却資産が帳簿残高を下回る場合は売却損の額が、また機器・図書等を廃棄処分する場合には帳簿残高が「資産処分差額」(差損)の科目に計上される。
以上のように、消費収支計算書には、財産が増える取引(純増)もしくは財産が減る取引(純減)が計上されていることになる。
(4)消費収支計算書の見方
消費収支計算書は、毎会計年度の経営成績を把握するための財務計算書である。帰属収入から基本金組入れが適正に行われているか、消費支出の内容が適正であるか、その結果として消費収支(「当年度消費収支超過額」)が収入超過か支出超過か、平たくいえば黒字か赤字か、その均衡の状況に問題はないか、さらに重要なことは計算書の最後の欄(ボトムライン)に記載されている「翌年度繰越消費収支超過額」を把握することにあり、以上のように消費収支計算書は財政の「健全性」を見るためのものである。
消費支出の内容の妥当性を構成比率で検証すると、基本金組入率はおおむね帰属収入の15%程度が妥当とすると、残りの85%程度が消費支出に充てられる消費収入となる。この消費収入をもって教育研究活動のための人件費、教育研究経費、管理経費等の消費支出に充てていくことになる。将来の経営源泉のために生み出しておかなければならない消費収支差額(黒字額)を5%程度確保するものとすると、消費支出は80%以内に抑えることが私学財政の健全性の上からも必要である。消費支出80%が、企業でいう損益分岐点に相当する学校法人における消費収支分岐点であるとの見方もできる。
また、消費支出の80%の内訳については、人件費50%、教育研究経費25%、管理経費5%程度が大学法人における平均的な(望ましい)数値といえる。
なお、決算の結果、帰属収入より消費支出が大きい場合は、基本金組入れ前に支出超過であり(これは企業でいうところの経常利益が赤字で)、自己資金が全く生み出せておらず、財政上好ましくない状況と認識しなければならない。
さらに、帰属収支はプラスでも消費収入より消費支出が大きい場合、基本金組入れ後の消費支出超過でこれも赤字であるが、この場合は基本金組入れができており、ある一定の自己資金は確保されていることになる。
当然のことながら一番好ましいことは、毎年適正な額の基本金を組入れた上で、消費収入超過額(黒字額)が継続して計上できることである。
(つづく)