平成22年4月 第2399号(4月28日)
■健全な証券投資を行うために
―証券市場に関する学生への注意喚起 A―
近年、金融危機の中で市場の混乱に乗じた不公正取引が(若年層も含めて)増加傾向にある。そこで証券取引等監視委員会から、学生の証券取引への注意喚起及び学生を指導する教育関係者へのメッセージを寄せていただいた。(3回連載)
前回は、インサイダー取引規制と注意点を述べたところであるが、今回は具体的な事例を通じて注意を促すこととしたい。
●インサイダー取引事件の概要
情報受領者による具体的な摘発事件について紹介したい。
一例目は、大手銀行の元行員が(情報受領者)、銀行勤務時の後輩から上場会社の経営陣が自社買収(MBO:重要事実)を行うという未公表情報を聞き、公表前に当該上場会社の株式を買い付けたというものである。この後輩は、銀行で企業の合併・買収(M&A)に関する業務を行っており当該MBOにも関与していたが(契約締結者)、違反行為者である元行員は、後輩との会食の席で当該情報を聞いたという。
二例目としては、上場会社の役員秘書(会社関係者)から株式公開買付け(重要事実)に関する未公表情報を聞きつけ、公表前に公開買付け対象会社の株式を買い付けたというものである。違反行為者は役員秘書の弟であるが(情報受領者)、役員秘書との何気ない日常会話の中で「重要事実」を知って違反行為に及んだものである。
以上の例においては、情報を伝達した会社関係者等の希薄な情報管理意識が違反行為に繋がったともいえるため、洩らした本人の知らないうちに第三者を犯罪者にする恐れがあることを肝に銘じ、たとえ「重要事実」を知ったとしてもその情報を家族や友人などに決して洩らさないということを教訓としていただきたい。
※その他の摘発事件については、「証券監視委の活動状況」や「課徴金事例集」を参照。
(証券監視委ウェブサイト http://www.fsa.go.jp/sesc/index.htm)
●早稲田大学OBらによる相場操縦事件
不公正取引としては、財産上の利益を得る目的で意図的・人為的に株価を操作する行為も後を絶たないところである。
昨年九月、早稲田大学投資サークルのOBらが、インターネットを通じて、うその買い注文を大量に出して成立直前に取り消す「見せ玉(ぎょく)」と呼ばれる手口で株価をつり上げたうえ、高値で売り抜けたとして逮捕された。
「お金が儲かって面白かったので、続けてしまった」、「他の投資家もこのような見せ玉等の行為をやっているから自分もいいんだ」、「たぶん大丈夫、捕まることはないだろう」、これらの言葉は、彼等の犯行当時の思考が公判で明らかとなったものである。
大学では、仮想の取引などを通じて市場経済の仕組みを学ぼうとするサークルが多いという。純粋な活動に止まればよいが、実際の取引を行い利益優先の姿勢が見え隠れすると、次第にエスカレートし犯罪行為に及ぶ危険性も孕んでいることから、周りにいる関係者も注意を払う必要があろう。
●違反の効果について
インサイダー取引の違反者に対する制裁には、@課徴金、A刑事罰の二種類がある。課徴金は行政上の措置として金銭的負担を課すもので、法定の計算方法による利得相当額の没収を目的としている。一方、刑事罰としては5年以下の懲役若しくは500万円以下の罰金、又は併科となっている。
また、財産上の利益を得る目的で相場操縦を行えば、10年以下の懲役及び3000万円以下の罰金、さらに行為によって得た財産は没収されることとなる。
ちなみに、前述した相場操縦事件では三被告に対し、それぞれ懲役2年2月・罰金250万円、懲役2年・罰金300万円、懲役1年6月・罰金150万円、さらに三人から売付総額である約4億3000万円を追徴するよう求刑されている。
●健全な証券投資を
現在、株をはじめとする証券取引は、パソコンや携帯電話によるインターネットで簡単に売買注文できる時代である。そんな手軽さも手伝って取引口座数は急速に増加した。そのような中で、証券監視委や証券取引所は、常に個別銘柄の株価の動きや注文の動向をモニターしており、インサイダー取引をはじめとする不公正な取引は、例え数万円の少額でも必ず網の目に引っ掛けている。
いずれにしても、犯罪に手を染めれば違反行為者のみならず家族までもが社会的制裁を受けることも考えられる。それよりは我が国や世界の金融・資本市場の仕組みを知り、健全な証券投資の手法を学んでいくことをお薦めしたい。
※証券投資学習については、東京証券取引所や日本証券業協会などのウェブサイトを参考にされたい。
(つづく)