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平成22年4月 第2397号(4月14日)

高めよ 深めよ 大学広報力 〈67〉 こうやって変革した64
 “カトカン改革”が成果
 退学率が激減 独自の“初年次教育”導入 
 嘉悦大学

 新しい学長の就任で、これほどの大学改革が行われ、短期間に一定の成果が現れたのは稀有なケースといえる。さまざまな改革の白眉は、どの大学も抱える悩みである退学率を、独自の取組みで激減させた。嘉悦大学(加藤 寛学長、東京都小平市)。「カトカン」の愛称で親しまれる新学長の加藤は、それまで二つの大学で際立った大学改革を行い、嘉悦大では、どんな改革を実施するのか、注目されていた。加藤は退学問題に強い関心を寄せた。「退学は個々の大学経営というより、国全体の活力に関わる重要問題」と“退学ゼロ”に執心した。どのような手法で、高かった退学率を激減させたのか、初年次教育など「カトカン改革」ともいえる嘉悦大の新しい試みを広報担当者に聞いた。
(文中敬称略)

24時間開放キャンパス “居場所づくり”狙う

 嘉悦大学は、1903年、日本で初めて女子の商業教育を行った私立女子商業学校が前身。1950年に設置した日本女子経済短期大学を、82年に嘉悦女子短期大学に改称。01年に4年制の嘉悦大学を設立した。現在、経営経済学部と短期大学部合わせて約1450人の学生が学ぶ。
 教育理念は創立者の嘉悦 孝が唱えた「怒るな働け」。解決すべき課題の原因を他人や外部の環境に求めず、自分自身の力と責任で解決して欲しい、という願いが込められているという。
 加藤は、08年4月、学長に就任。慶應大学湘南藤沢キャンパス(SFC)開設に関わり、初代総合政策学部学部長。95年から12年間、千葉商科大学学長を務め、両大学で改革を進めた。
 加藤は、まず大学改革の一環として「居たくなる大学づくり」を唱え、「24時間キャンパス」を実現した。広報センター長で経営経済学部講師の細江哲志が説明する。
 「24時間キャンパスはSFCでも開学当初から取り入れました。ルーツは慶応義塾に先立つ適塾の『一日先んじたものは師となる。一日遅れたものは弟子となる』です。24時間、キャンパスで学生、職員、教員が区別なく学び合う、という大学の理想像をめざします」
 24時間キャンパスは、退学率ゼロの取組みとリンクしている。細江が続ける。「退学理由で最も多いのが『不本意入学』。この対策として、『居場所づくり』を打ち出しました。キャンパスにいる滞在時間を増やすことで、愛校心を持ってもらうのと、いつでも学生が集まって勉強できる空間をつくるのがねらいです」
 実施後、「仲間作りができず、居場所が見つからない新入生にとって、24時間キャンパスは仲間とコミュニケーションのできる場になっています」(細江)
 同大のユニークな「初年次教育」。高校から大学に入学した学生には、「大学での学び」に慣れるための移行期間が必要。このために、一年次の「基礎ゼミ」を柱とする独自の取組みをNPO法人の「カタリバ」と08年から実験的に開始、09年から本格導入した。
 基礎ゼミでは、各種のコミュニケーションスキルを通じ『自分自身の将来を設計する』ために『具体的に実行すること』の重要性を学ぶ。学生が本来持っているコミュニケーション意欲を引き出し、『カタリ(語り)』を通じて、自身の生活やキャリア設計を具体的なものとして意識付ける。
 「それまで入学時、なかなか(やる気に)火がつかず、ドロップアウトする学生もいたのですが、09年の退学率は確実に減りました。今年は2年目の挑戦になるので、真価が問われます。大学は楽しい、学び合うところ、という面を、これから伝えていきたい」(細江)
 改革は、これだけではない。「KALC(KaetsuActiveLearningClassroom)」は、新しい学びのスタイル。アクティブラーニング(知識創造型学習)を推進する教室。細江が話す。
 「多様な教育・学習モードに自在にチェンジできる教室として設計。全ての机と椅子を稼動型にして、机をつなげ、グループワークやディスカッションができます。PCや無線LANを活用して、移動しながらプレゼンテーションができます。学生の集中力が高まるといった効果も出ています」
 加藤が、いま力を入れているのは、情報教育。加藤は、新入生にこう語りかけた。「小規模ながらも和気あいあいとして、学生と教職員が一体となった楽しいキャンパスをつくってきました。楽しくなければ大学ではありません。でも、楽しいだけでも大学ではないのです。皆さんにまず独創的で全く新しい情報教育を提供します」
 新しい情報教育とは、独特のカリキュラムを設け、KALC教室を使い、演習を中心とした実践型の授業を実施。PCに加えケータイやデジカメなどデジタルツールを複合的に活用、日常生活からの問題発見、調査手法、仮説検証を学ぶ。学部生や大学院生による授業支援スタッフ(SA/TA制)がサポートする。
 ユニークなのは、学生が運営する人材バンク、HRC(ヒューマンリソースセンター)。清掃やオープンキャンパスの案内など学内のさまざまな業務を、HRCが仲介して、仕事の内容や形態を整理して、スキルを持った学生を派遣する。広報センター次長の前島功二が説明する。
 「学内での雇用創出がねらいで、学生の時給は950円です。学生に運営を任すことで、学生の自立心の養成に寄与しているほか、経済的な事情を抱えながら学業を続けたいという学生にとっても喜ばれています」
 大学スポーツでは、女子バレーボール部が強豪だ。「全日本バレーボール大学選手権大会など数々の大会で優勝。ユニバーシアード代表を多数輩出しています」(前島)
 広報体制は、加藤の学長就任後に強化された。09年4月に広報センターを開設。「ネットによる発信を充実させるとともに、『あそこに行けば、おもしろい』といった情報を高校生だけではなく、社会に向けてもアピールしたい」(細江)
 細江が続けた。「カトカンのいる大学ということで志願してきた学生もいるし、就職でもカトカン効果はあります。加藤学長の広報効果は大きいが、それに依存しないで、教育力で勝負できる大学にしていきたい」
 加藤は、就任時に、こう述べている。「大学を変えるときは、制度やルールでなく、人を変えなければならない。教員、職員、学生といるが、まず学生、それも1年生から。魅力ある教育を行い、学生が変われば職員も教員も変わる。3、4年後には、大学が変わる」
 加藤の薫陶を受けた“カトカンチルドレン”が来年には卒業する。加藤が「大学が変わる」と言った3、4年後という年でもある。加藤の行ってきた嘉悦大改革の“最終楽章”が問われるといっていいかもしれない。

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