平成22年4月 第2397号(4月14日)
■決算書の基礎知識 財務を知って業務に活かす @
「財務を読み解く 私学財政の役割や仕組みを知る」
「オープンブックマネジメント」という経営手法がある。内部関係者に財務情報など組織の状況を分かりやすく開示し、当事者意識向上や意識改革につなげるものである。大学改革も内部の正確な情報共有なくしては達成し得ない。このたびは、「実務者のための私学経営入門」の著者でもある、(学)和洋学園の石渡朝男常務理事・事務局長に大学財務の基礎知識について執筆してもらった。
近年、大学を取り巻く課題の高度化、複雑化、多様化が進んでおり、大学職員の役割がますます重要になっている。まさに、大学改革は職員の肩にかかっていると言える。
その中でも特に、財務諸表を読み解く力は全ての業務に必須になっているが、経理・財務担当者以外にはなかなか読む機会は少ないのが現実である。職員一人ひとりに財務を読み解く力があれば、大学全体の経営状態を知り、各部署の戦略を立案していくことに繋がる。いまや、大学職員が経営層と同じ視点で考え、自ら判断し、積極的に行動するような組織でなければ、厳しい競争に勝ち残れない。
そこで、財務を読み解くのに必要な基礎知識について、財務に関心を持ってもらえればという目的のもと、今後五回にわたって「決算書の基礎知識〜財務を知って業務に活かす」を連載する。
1.私学財政の法的根拠と仕組み
@私学財政の法的根拠
高等教育機関である私立大学等に対する国の財政的な助成措置は、1970(昭和45)年の私立学校経常費補助金制度の創設にさかのぼるが、その後、私学助成について法律制定の声が高まり、その結果議員立法という形で生まれたのが1975(昭和50)年に制定された私立学校振興助成法である。
この法律の第一条では、「私立学校の教育条件の維持及び向上」、ならびに「私立学校に在学する幼児、児童、生徒、又は学生に係る修学上の経済的負担の軽減」を図り、「私立学校の経営の健全性を高め、もって私立学校の健全な発達に資すること」を目的として、私立学校に対する助成の措置について定めている。
さらに、我が国における教育の基本的事項を定めた教育基本法が1947(昭和22)年に制定以来、半世紀余りを経て2006(平成18)年に大幅改正され、同法第8条にあらたに「私立学校」の条文が追加され、「国及び地方公共団体は、その自主性を尊重しつつ、助成その他の適当な方法によって私立学校教育の振興に努めなければならない」ことが規定され、私学に対する財政上の助成措置が改めて明確になった。
A私学財政の役割・機能
教育研究を事業目的とする私学経営のすべてに関わりをもつのが財政であり、財政を離れて経営を語ることはできない。そもそも学校法人は、企業と異なって生産性がなく、また国立大学が「補給型財政」であるのに対して私学は「自給型財政」と言われており、学校法人の財政においては、自己資金を創出していくことが極めて大事なことである。「如何に自己資金を生み出していくか」、「如何にバランスのとれた収支状況を維持していくか」が重要なポイントである。教育研究を維持していくのが財政であり、教育研究の維持・向上のためには財政基盤の強化が不可欠である。
B私学財政の特性
私学財政の特性を挙げるとすると、一つは「収入源泉の公共性」であり、二つ目は「収入支出の固定性」である。
まず一点目の「収入源泉の公共性」とは、学校法人収入の主たる収入は学生・父母からの学納金収入であり、国民の税金を源泉とする補助金、さらに国民の善意による寄付金等、学校法人の収入は極めて公共性が高いということである。
二点目の「収入支出の固定性」とは、学校法人の収入の主要な財源である学納金収入は、学生数に学費単価を掛け合わせて算出されるが、このことは入学者数が決まれば大学では向こう四年間の収入がほぼ決まってしまうことを意味している。従って支出においても、その限られた収入の範囲で収まるような予算編成に心がけることは言うまでもなく、企業のように年度ごとによって収入・支出が大きく変化することはほとんどないといった特性を持っている。
さらに、私立大学における収入構造を考えてみると、収入は大きく分けて三つに分類することができる。一つは学生負担金(学納金、手数料収入)、二つ目は社会負担金(補助金、寄付金収入)、そして三つ目が大学稼得金(資産運用、事業収入等)で、これらの収入の全体の収入に対する割合は、医歯系大学法人を除く大学法人の平均では、学生負担金が約80%、社会負担金が約15%、そして大学稼得金はわずか5%前後に過ぎないのが実情である。ちなみに、米国私立大学の平均学納金比率は40%程度で、これらの数字からもわかるように、わが国の私立大学の収入は、いかに学費に依存しているかが理解できる。
C私学財政の仕組み
私立学校振興助成法第14条第1項により、この法律に基づく経常的経費に係る補助金の交付を受ける学校法人は、文部科学大臣の定める基準に従い会計処理を行うことが義務付けられている。
その文部科学大臣の定める基準が、私学に対する経常費補助金の制度が施行された翌1971(昭和46)年に制定施行された学校法人会計基準(文部省令第18号)である。この基準が施行されるまでは共通の一般的会計処理基準がなく、それぞれの学校法人がまちまちの方法で処理しており、その方法は必ずしも合理的なものではなく、統一会計基準として制定されたのが学校法人会計基準である。
この基準の第4条では、財務計算書として「資金収支計算書」、「消費収支計算書」、および「貸借対照表」の財務三表を作成しなければならないと規定しており、私学の財政は主としてこの三表により表わされている。なお、これらの計算書等は、決算終了後2カ月以内に作成し、監事の監査報告書を付して各事務所に備え置き、利害関係人から請求があった場合には、閲覧に供しなければならないと私立学校法(第47条)に定められている。
さらに、学校法人会計基準第2条では、会計処理に当たっては、@財政の状況について真実な内容を表示すること(真実性)、A「複式簿記」によって会計帳簿を作成すること、B会計事実を明瞭に表示すること(明瞭性)、そしてC会計処理の手続や表示方法を毎年継続して適用すること(継続性)の四つの原則をかかげており、この原則に基づいて会計処理することを義務づけている。
(つづく)