平成22年3月 第2394号(3月10日)
■高めよ 深めよ 大学広報力 〈64〉 こうやって変革した61
新学部設立で独自性出す
パイロット整備士養成 4月から英語教育改革
崇城大学
少子化や大学全入に伴って地方の中小規模大学の厳しさが言われて久しい。九州の地にあって、逆風のなか、改革に気を吐いている二つの大学を紹介する。最初は、崇城大学(中山峰男理事長・学長、熊本市)。67年、熊本工業大学として開学、2000年、芸術学部を設置、大学名を崇城大学に改称。05年に薬学、情報、生物生命の3学部を増設して五つの学部を擁する総合大学に。07年からは、航空整備士やパイロットの養成コースを設けるなど時代の流れに沿った改革を行ってきた。今年4月からは、教育改革の目玉として、全学生を対象にした「生きた英語教育」を導入する。「将来、新しい学部を作る構想もあります」という崇城大学の広報担当者らに数々の改革の実践と成果などを聞いた。
(文中敬称略)
工業大から総合大学へ
崇城大学の前身は、1949年に創設した電気・電波学校。67年、熊本工業大学が開学、工学部のみの単科大学。2000年、芸術学部を増設、崇城大学に改称。05年に薬学、情報、生物生命の三学部を増設。現在、五学部に約3500人の学生が学ぶ。
法人局長の高木欣哉が大学を語る。「崇城大学の名前は、君子達が学び競う学科棟は、『城』であり、その城が集まって『大業を崇(おこ)す』ところに由来しています。地方の大学が厳しいといわれる時代、あえて熊本の文字を取り、真の総合大学をめざしました」
改革の烽火は2000年に上がった。芸術学部を増設。「当時、南九州には国立大の教育学部美術学科があるだけで芸術専門の大学がありませんでした。そこで、芸術家を育てよう、と開設。教授陣には著名な彫刻家、画家の先生を招請しました」(高木)。名誉学長の中村晋也は文化勲章を受賞している。
05年には薬学部を新設、同時に、工学部を改編して生物生命学部、情報学部を設置した。「薬学部第一期生は、今年3月に卒業、薬剤師国家試験を受験して全国2位、西日本1位という好成績をあげることができました」(高木)
改革は続く。07年には、工学部の宇宙航空システム工学科に、新たに航空整備士コースを開設。08年には、宇宙航空システム工学科にパイロット養成コース新設した。
二等航空整備士資格は、航空会社等での実務3年間を経て取得するのが通常だ。航空整備士養成コースでは、2年次に学科試験を、4年次に実地試験に合格、在学中に二等航空整備士資格を取得する体制を整えている。
パイロット養成コースは、3年次10月までに約80時間のフライト実習を行い、自家用操縦士技能証明を取得。4年次7月までに、加えて約150時間のフライト実習を行い、事業用操縦士技能証明の取得をめざす。
「航空整備士コースは、団塊世代の整備士が定年になり不足していることから、4年制の大学として初めて設置。パイロット養成コースは、航空業界でジャンボ機から中小型旅客機への転換がいわれ、パイロットの不足が叫ばれていることから設けました」と高木。
熊本空港に隣接して空港キャンパスがある。日本の大学としては空港キャンパスは唯一で全寮制教育を行う。フライト実習には新規導入した最新型のセスナ(172S型)を使用している。
改革はやまない。4月から全学生を対象に「生きた英語教育」を行う。英語教育に高い評価と実績を持つ神田外語大学(佐野隆治理事長、千葉市)のノウハウを導入、同大からネイティブの教師を受け入れる。財務局長の谷川多恵子が語る。
「多くの学生が英語に興味を持ち、英語が好きになるよう、英語の基礎能力の向上をめざします。生きた、身につく英語教育を行い、真のコミュニケーション力を持ち、グローバル社会に羽ばたく人材を育成したい」
具体的には、国際社会で活躍できる人材の育成。全学部一、二年生の英語基礎能力を定着させ、将来、大学院や社会に進んだ時に国際学会等でコミュニケーションできる科学者、技術者の育成をめざすという。
現在、学生会館を全面的に改修、神田外語大のメソッドが展開できる環境を整備中だ。新しい英語学習施設は「SILC」(Sojo International Learning Center)と命名。4月にオープンするが、SILC内では英語しか使えない、異次元の世界ができることになる。
「SILCにはネイティブ教師が常駐、授業で使うほか、学生は自由に勉強できるし、教師からアドバイスも受けられます。理事長は『理系にこそ英語が必要で、中途半端な(英語教育の)改革はしたくない』と設置しました。本当に英語が身につくやり方を選んだので、必ず成功させたい」(谷川)
ご多分にもれず、崇城大もかつては、中国地方や四国などから多くの学生が来ていた。現在の学生の出身地は、北海道から沖縄までいるが、全体の九割が九州・沖縄、県内出身者が4割。不断の改革は、かつてのような出身地分布にしたいという思いもあるようだ。
広報体制を、広報課長の佐々瑞雄に聞いた。「本学がめざす『進化するSOJOの先端テクノロジー』、『総合大学としての社会への貢献度アップ』を柱に、攻めの広報戦略で受験生増、就職力向上に繋がるよう広報活動に取り組んでいます」
手際よい広報をしている。取材に訪れた2月中旬、地元紙、ブロック紙、全国紙県版に、同時に崇城大がらみの記事が一斉に載った。〈建設100周年を迎えた山鹿市の八千代座のキャラクター公募で、崇城大3年の錦戸秀雄さんのデザインした『チヨマツ』が最優秀賞に選ばれた〉
熊本市民会館が08年7月から、愛称が「崇城大学市民ホール(英称:Sojo University Citizens Hall)」になった。契約期間は2012年3月末まで。年間1500万円での契約。
「熊本市が募集したネーミングライツに応じました。市民会館は、有名アーティストのコンサートなども行われ市民に親しまれています。地域のお役に立ちたい、ということから英断しました」(佐々)。地域への熱い思いが込められている。
見てきたように、工業系の単科大学から芸術、薬学、情報、生物生命と次々に新学部を設置、航空整備士やパイロットの養成コース、英語教育改革…と改革の松明をずっと掲げ続けてきた。最後に、これまでとこれからの改革を高木に聞いた。
「新しい学部やコースを設置したのは、もちろん、時代の要請もありますが、大学の勢いをつける起爆剤にもなっています。将来、医学部や獣医学部をつくりたいという構想もあります。大学が生き残るには、オリジナリティー、特色をつけていくことが大事だと思います」。崇城大は、これからも改革の灯を絶やさない。