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平成22年3月 第2394号(3月10日)

ラーニング・ポートフォリオ活用授業〈上〉
 

弘前大学21世紀教育センター高等教育研究開発室教授 土持ゲーリー法一

 学習者中心の大学づくりの実践として、「ラーニング・ポートフォリオ」を用いた授業の設計が注目されている。弘前大学21世紀教育センター高等教育研究開発室の土持ゲーリー法一教授は、「単位制度の実質化」には、能動的学習にもとづくラーニング・ポートフォリオ(学習実践記録)作成が効果的であり、これらは学習成果をどのように応用して、次に繋げるかに重きが置かれているので、成績評価も従来とは異なる評価方法を用いることになる、と述べる。土持教授のユニークな取組について寄稿してもらった。

 2009年7月、京都大学で『大学生研究フォーラム2009』が開催され、「大学生の何が成長しているか、その中身を考える」と題して重要な問題が提起された。これは中央教育審議会『学士課程教育の構築に向けて(答申)』(2008年12月24日)において(教員が)「何を教えるか」よりも、(学生が)「何ができるようになるか」を重視する視点とも共通するもので、現在の大学教育改善の重要な課題となっている。
 学生に「何が育っていて、何が育っていないのか」は、「単位制度の実質化」とも密接に関わる問題である。戦後日本の大学は、アメリカの大学をモデルに単位制度を採用した。すなわち、1時間の講義に対して2時間の教室外学習を合わせた3時間で1単位と規定されている。しかし、現状を見れば、講義のみで単位が与えられている。換言すれば、教室内授業による「知識」は育っているが、教室外学習が不十分なため、深い学びである「理解」にまで到達していない。
 同『答申』では、第2章「学士課程教育における方針の明確化」第2節「教育課程編成・実施の方針について〜学生が本気で学び、社会で通用する力を身に付けるよう、きめ細かな指導と厳格な成績評価を〜」が必要であるとして、国際的に通用する授業シラバスの留意点として、「準備学習の内容を具体的に指示すること」「成績評価の方法・基準を明示すること」などをあげている。
 これは授業形態の抜本的な見直しを促すもので、「一方的に知識・技能を教え込むのではなく、豊かな人間性や課題探求能力等の育成に配慮した教育課程を編成・実施する」ことを求めている。原因の一つに、授業シラバスと単位制度が連携していないことがあげられる。たとえば、授業シラバスに、2/3の教室外学習にあたる「準備学習等についての具体的な指示」を盛り込んでいる大学は約半数に過ぎず、学生が必要な準備学習等を行ったり、教員がこれを前提とした授業を実施したりする環境にないと同『答申』は批判的に分析している。
 私の授業では、2/3の教室外学習時間を1/3の講義に繋げるための授業を実践し、学生にラーニング・ポートフォリオを書かせている。私の授業実践を図式で示せば、図1「『学士力』を育てる授業実践」のようになる。同『答申』によれば、学士課程で育成する21世紀型市民の能力を「学士力」(学士課程共通の学習成果)との認識を示している。具体的には、知識・理解、汎用的技能、態度・志向性、そして総合的な学習経験と創造的思考力の四つである。紙面の関係で図表の詳細な説明はできないが、私の授業は四つの枠組み(教室内授業、教室外学習、ラーニング・ポートフォリオ、MIT方式試験)から構成されている。重要なことは、これらの四つが結合して「学士力」に繋がっていることである。「学士力」とは、学士課程教育共通の学習成果のことで個々の授業では必ずしもないが、この図式は授業方法論を示したもので、どの授業科目にでも応用できる。
 この授業での到達目標は、学生が最終的にラーニング・ポートフォリオをまとめることにある。「学士力」をどのように育てれば良いか、同『答申』は具体的な方法まで言及していないが、実は、知識・技能・態度、総合力の四つの能力は、ラーニング・ポートフォリオによって測定することができるのである。たとえば、図表「評価方法と分類目標との関係」からも、ポートフォリオが四つのすべてを網羅し、測定範囲も広範であることがわかる。
 授業では、可動式机と椅子を備えた教室でグループ活動を中心とする授業形態を取り、学生によるグループ活動を促すためにウェブ版シラバスとは別に、履修学生のために約19頁の授業シラバスを作成して配布している。私は、シラバスを授業のシミュレーションであると位置づけ、準備学習から各単元の到達目標まで明確にして、教員がいなくても「自学自習」できるように配慮している。
 学生は、授業前に指定された図書を読んで、「指定図書課題・講義フィードバック」(用紙)にまとめ、図書館カウンターで「図書印」を押して授業に臨む。すなわち、「ソクラテス・メソッド」にもとづき、「予習しないで授業を受けてはならない」を原則している。準備学習は、予習・復習のためだけであってはならない。授業内容と密接に繋がっている必要がある。たとえば、指定図書課題(2問)は、授業への導入のための「スクラッチ・クイズ」に活用され、「遊び」から授業がはじまり、自然にグループ討論に入り、指定図書課題を討議して意見をまとめて、他のグループと議論しながら理解を深め、同時にコミュニケーション能力も高めるようになっている。グループ討論での意見などは、翌週の「指定図書課題・講義フィードバック」にまとめさせることで、授業を「省察(振り返る)」させる時間を与え、自分の言葉にパラフレーズして書くように指導している。なぜなら、学生がまとめる「指定図書課題・講義フィードバック」は、ラーニング・ポートフォリオのファイルに綴じられ、15回の学習過程をラーニング・ポートフォリオとしてまとめる一連の作業に連なっているからである。
(つづく)

 (備考:能動的学習などの授業改善は、拙著『ティーチング・ポートフォリオ〜授業改善の秘訣』(東信堂、2007年)を参照)


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