平成22年3月 第2394号(3月10日)
■私大協会
私大経営問題協議会開く
徳永 保高等教育局長が基調講演「高等教育の現状と課題」
ネットワークマルチバーシティ−中小規模大学の共生−の研究発表
日本私立大学協会(大沼 淳会長)は、去る2月25五日、東京・千代田区のホテルメトロポリタンエドモントで「平成21年度(通算第2回)私立大学経営問題協議会」を開催した。同協議会は、私立大学基本問題研究委員会(担当理事=黒田壽二金沢工業大学学園長・総長、私大経営WG小委員長=中村量一中村学園大学理事長)が準備を進めてきたもので、地方にも視野を広げて、特に中小規模大学の経営、私大の抱える現状と課題について協議・情報交換を行った。大学教育の質保証の問題、情報公開という焦眉の課題についての話題に主軸が置かれ、149大学から155名が参加し経営力の強化について協議した。
協議では、はじめに小出秀文事務局長が「私学振興の新局面と当面する重要課題」について同協会の重点事業推進状況を交えて解説した。新政権の来年度の政策動向を注視すると共に、教育に携わる側から様々に提言を行っていくとして、次年度推進すべき方策の素案を示した。
続いて、徳永 保文部科学省高等教育局長が「わが国の高等教育の現状と課題」と題した講演を行った。
人口減に伴う労働力の減少という局面において、資質の向上を図り人材育成を行うといった、高等教育が担うべき今後の課題等を述べた。それに関連して、学生への就業力育成支援事業が措置されることについて解説。また、設置基準改正により、大学における職業指導(キャリアガイダンス)が制度化される。大学教育の「質」の評定のひとつをアウトカムに準拠するのであれば、社会的・職業的に自立した学生を輩出するということも大学が社会の要請に対して応えるべき喫緊の課題。多くの大学がその課題解決に取組むことを支援していきたいと述べた。そのほか、大学改革の課題について、国際比較からの量的規模、25歳以上入学者の増加方策、情報公開の推進、大学間連携の取組の実質化等、取組むべき項目を挙げ、これらに加えて大学教育の有用性についても大学側が声を上げていくことが重要と述べた。
休憩の後、同委員会の委員である佐藤東洋士桜美林大学理事長・学長が、「中央教育審議会大学分科会における審議動向と今後の私立大学の対応について」と題して講演を行った。
中央教育審議会大学分科会委員の立場から、大学の質保証、情報公開といった課題について審議動向も交えながら、これら課題を一体に捉えて考えることを示した。財務・経営に関する情報公開について@学校教育法に定める学校として、A公益を活動目的とする法人として、B公費が支出されている法人として、の三つの視点から意義と現状を解説した。さきに公表された「平成21年度学校法人の財務情報等の公開状況に関する調査」によると、学校法人の約九割はホームページ等で自主的に財務情報等の一般公開を行っている。
今後まとめられる課題として、教育情報公開について、情報発信の効果により大学の教育力の向上が図られると述べて、公開すべき教育情報の項目例を説明した。公開により外部からの評価を受け、結果を教育活動にフィードバックするといった取組が質の保証につながることだとまとめた。
研究発表では、「ネットワークマルチバーシティ 中小規模大学の共生―IT化された21世紀の総合大学」と題して、長谷川 亘京都情報大学院大学教授・京都コンピュータ学院理事長がICTを利用した連合大学の構想を提示した。中小規模大学が大規模大学のもつ経営上のスケールメリットに対して、互いの経営権を侵さない分社経営型の大学連合・連携を形作ることで共生していこうとする仕組みを解説。連合・連携というスタイルは、単科大学でも既存部分を活かしながら、総合的に教育の展開が図れる上、質の向上にもつながると述べた。そのために、IT・ネットワーク化を進め、事務処理に関する部分は共通化を進める。また、教育についてもeラーニングにより他大学の授業も受けられる。あくまで、各大学の経営権や個性を残すことを前提とした高効率化であることを主張した。
閉会の挨拶では、中村小委員長が「中小規模大学の厳しい状況が聞かれるたびに『協調と競争で共生する』ことを述べてきた。この『共生』の要に当協会が当っていかなくてはならない」と述べて締めくくった。
情報交換会では、黒田担当理事が挨拶に立ち、乾杯。協議された内容、各地域の枠を超えて、多くの参加者が情報交換を行った。