平成22年2月 第2392号(2月24日)
■私高研
私立大学経営システムの現状と課題
第43回 公開研究会開く
日本私立大学協会附置私学高等教育研究所(大沼 淳所長)は、19日東京・市ヶ谷のアルカディア市ヶ谷で「私立大学経営システム―現状と課題」をテーマに第43回公開研究会を開催した。同研究所の私学経営の在り方を研究するプロジェクトチームが、今年度実施した@「財務運営に関する実態調査」とA「事務職員の力量形成に関する調査」の中間集計を基に担当の研究員から、経営計画と財務運営との関連性や経営の支援組織としての事務局体制の現状分析について、更に問題点と将来に向けての課題などの発表が行われた。
はじめに、同研究所の瀧澤博三主幹が「大学経営には、安定性や継続性が大事であることは言うまでもないが、今日では、機動性や戦略性というキーワードも重要視される」と述べた。その上で、「このたびの研究会は中間集計段階のものであり、今後、最終結果がまとまり次第、改めて公表していきたい」と挨拶した。
最初の講演は、「私立大学における戦略的経営―現状と課題」と題して両角亜希子氏(東京大学大学院教育学研究科専任講師)が、前述の@の調査に基づいて、▽「戦略的経営」とは、▽年間計画(事業計画と予算編成)、▽中長期計画等について発表した。
@の調査対象は同協会加盟校(382校)で回収率61.5%(235校)で、回答者は経理担当部課長56.6%、事務局長21.7%、理事6.8%など。回答大学の規模は、学生生徒収容定員(法人全体)が平均5543名(約半数は4000名未満)、学生収容定員〈大学のみ〉は平均2981名(1000名未満が24%、1000名〜2000名未満が27%)と小規模校が多い。また、専任教員数〈大学〉141名、専任職員数は平均〈大学〉97名。
そのほか、財政規模、定員充足と収支状況等の回答大学のプロフィールを分析した上で、「戦略的経営のイメージ」(目標→中長期計画→事業計画→予算→結果→中長期計画のサイクルの実質化)を示した。
個々の事項については重視する財政政策では、定員通りの学生確保95.7%、競争的資金の獲得70.2%、人件費削減64.7%など。財務分析などの取組では、中長期の財務シミュレーション実施中71.1%など。中長期計画の立案では、策定ずみ55%、策定中17%など。事業計画の予算編成への関わりでは、反映されている47%、ある程度反映されている46%など。中長期計画の策定体制では理事会から事務局組織まで30〜40%が審議しているが、82.2%は理事会が決定。
同氏は、最後に、中長期計画の実質化は、年間目標に落とし込むことが最重要と締めくくった。
次に、Aの調査に基づいて、「経営政策支援組織としての事務局の構築と事務局員の力量形成に関する課題」について、増田貴治氏(愛知東邦大学理事・法人事務局長)と坂本孝徳氏(広島工業大学常務理事・副総長・教授)の両氏が発表。
始めに増田氏が「経営政策支援組織としての事務局体制の構築」を説明。Aの調査結果は同協会の233校からの回答で、常任理事又は事務局長等が回答。
調査の結果、事務局や職員の経営・教学への参画(教職協働)について学生募集や学生相談等は90%以上だが、教育方針立案37.7%や共同研究・合同研修17.3%などは、大学の規模にかかわりなく低い。業務運営への参画状況では、マーケティングやIR機能、教育改革推進の事務部局等が極めて低い。特に、教育改革推進の事務組織については、大規模校(1500人以上)の72.2%が事務局対応しているのに対し、小規模校では30%ほどと低い。そのほか、政策決定に対する事務局の影響度合いについては、教育計画や研究計画の推進への参画について低いことが示された。
続いて、坂本氏が「事務局職員の力量形成に関する課題」について、大学の規模とのクロス集計結果を説明した。
まず、職員の力量の不足点では、「危機感が希薄」が大学の規模に関わりなく約60%と高い(大規模校では77.8%)、また「専門性が欠けている」が全体で46.8%と高い(大規模校では22.2%と低い)など。
次に、管理職に関しての改革内容は「年功制の廃止36.4%、職務内容の明確化32.0%などで、規模別の差異はあまりない。
そのほか、職員の採用方針、昇格基準、研修制度などを考察した。
まとめとして、職員の力量形成には、建学の精神に基づいた人材育成像の具現化や帰属意識の醸成が不可欠であり、その上で組織・運営を改善・改革し、事務局機能の強化を図っていかなければならないと結んだ。
休憩の後、「中長期計画に基づく私大マネジメントの改革」について篠田道夫氏(日本福祉大学常任理事)が講演した。
同氏は、この度の二つの調査及び理事会調査(平成20年実施)の結果から、私大のマネジメントにとっては、中長期計画の実質化と具体化が重要であると述べ、その計画を具体化し推進する体制、経営や管理運営の責任体制、意志決定と執行システム、さらに政策の企画立案体制、リーダーシップが欠かせないと強調した。
終わりに、「職員が元気な大学は大学全体が元気で改革が前進している」と述べ、職員のみが果たし得る固有の経営・教学の統合機能、大学と社会との接合機能こそが、政策形成への参画の原点であると論じた。