平成22年2月 第2392号(2月24日)
■文科省
管理監査ガイドラインへの対応とガバナンス改革
公的研究費の管理・監査の研修会
不正を防ぐセンシティビティとコミュニケーション
文部科学省は去る19日、東京・市ヶ谷の法政大学市ヶ谷キャンパスにおいて、「研究機関における公的研究費の管理・監査に関する研修会(第5回)」を開催した。研究費の管理・監査のガイドラインへの対応を通じた研究機関のガバナンス改革と活性化方策についての講演のほか、「大学を変えるコミュニケーション」の講演も行われた。昼食休憩後には、不正発生リスクの対応策の事例や科学研究費補助金の繰越申請手続きの簡素化等の説明も行われた。
研究費の不正利用防止に当たっては、各機関の教職員個々の意識改革が欠かせないことはもちろん、機関としてリスクを把握し適切な対策を講じていくことが重要である。教職員の意識をいかに変え、諸課題に対するセンシティビティを高めていくかについての講演のほか、各機関の不正対策の検証に資するため、各機関に共通するリスクを紹介した。
はじめに、新日本有限責任監査法人パートナー・公認会計士の大久保和孝氏が登壇し、「ガイドラインへの対応を通じた研究機関のガバナンス改革と活性化の方策」と題して講演した。
同氏は、導入後2年が経過したガイドラインの実効性を高めていくためには、まず、社会に横たわる問題に対するリスク感性力を高めるためのA物事の本質を見抜く力、@コミュニケーション力(伝達力含む)、A森を見て木を見る力などのある人材育成が必要、と述べたほか、不祥事を防止する鍵として、危機管理の三つのポイント(リスクの発生可能性の低減、リスク対応コストの低減、意識改革)を説明。
また、近年の不祥事に見る環境変化の激変と社会の認識の変化に関しては、これまでの経済環境の変化がもたらすリスク認識の変化など価値観のパラダイム転換が必要であると述べるとともに、研究費等の不正使用の発覚を巡る背景には、税務調査の厳格化、業者側のコンプライアンス意識の高まり、社会の視線の厳しさ、会計監査制度の導入などがあるとした。
コンプライアンスについては、変わりゆく社会からの要請を常に捉えながら、自らの業務の中に取り込んでいくという、日常的な継続した取り組みが必要であること、さらに、コンプライアンスは、センシティビティとコミュニケーションが車の両輪として機能しなければならないことなども解説した。
そのほか、様々な機関で起こった事案についての問題点や対応策なども示した。
最後に、社会の環境変化への適応について「生き残るのは最強の種ではない、最も高い知能を有している種でもない。最も敏感に変化に反応する種である」とのチャールズ・R・ダーウィンの言葉を引用した。
次に、「大学を変えるコミュニケーション」と題し、国立大学法人化を契機としたコミュニケーション活動から学んだこととして、慶應義塾創立150年記念事業室の岩田光晴室長が講演した。
同氏は、2004年(広島大学に在任中)の国立大学法人化への移行の様々なUI活動の中で、言葉やデザインなどを通じて、教職員・学生の意識へアイデンティティの浸透を促すコミュニケーション活動を実施した。フェーズ1としてコミュニケーション環境分析、フェーズ2としてコミュニケーションプランの策定、フェーズ3として学外コミュニケーション活動の実施とコミュニケーションプランの検証などの経緯を説明した。その上で、広島大学を変える七つの視点を紹介した。
「(1)変革期こそ、広島大学の「チャレンジ精神」を発揮するチャンスです。(2)自らの目標を持ち、成し遂げる責任を持つということ。(3)広島大学の存在価値とは何か? 常に問いかけていくことが大切です。(4)一人ひとりの行動と努力によって広島大学は発展していきます。(5)たくさんのファンは、我々にとっての強い支えです。(6)新しい広島大学を見て、触れて、感じてもらうために。(7)「心」と「行動」と「表現」。それぞれのアイデンティティを統合していくことが、広島大学のUIです。」
これら七つの視点を説明した上で、「広島大学を支えるすべての人が理解し合って行動していくことが、広島大学の心を一つに合わせていくことにつながる」とのまとめを述べて締めくくり、コミュニケーションの大切さを強調した。
昼食休憩をはさんで、文部科学省科技・学術政策局から、現地調査の実施と過去の不正使用事例の分析、研究費の管理体制と民間企業の調達事例、各機関に共通すると思われるリスクと対応策の事例などが説明された。
特に「預け金」や「架空取引」の事例やその対応策等について語った。
引き続き、平成21年度科学研究費補助金の繰越申請手続きについての説明があった。