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平成22年2月 第2391号(2月17日)

高めよ 深めよ 大学広報力 〈61〉 こうやって変革した58
 硬派イメージを一新
 学内施設を整備 高校訪問など広報改革 
 国士舘大学

 これほど変貌した大学も珍しいのではないだろうか。かつては、硬派の大学として知られていたが、いまや女子学生が三割弱を占める。明るいキャンパスには女子学生の明るい笑顔が弾ける。イメージが一新されたのは、国士舘大学(朝倉正昭学長、東京都世田谷区)。女子学生の増加は、教室・図書館、学生食堂や女性トイレなど学内施設の整備、入試広報における高校訪問の工夫などが功を奏したという。これには「軟弱になった」と嘆くOBもいるそうだが、受験生の増加にもつながった。この背景に、新学部の設置など様々な改革があるのはいうまでもない。そして、7年後の創立100周年に向けて新たな改革に動き出した。変貌を遂げた経緯と今後、それと広報体制について広報担当者に尋ねた。
(文中敬称略)

公務員採用に強い大学 女子学生も増加

 国士舘大学のキャンパスは世田谷、町田、多摩と三つ。世田谷キャンパスを訪れた。梅ヶ丘校舎は、地上3階の低層棟と地下1階地上10階の高層棟からなる。ガラス張りの建物が多く、明るく清潔感がみなぎる。学生食堂はデザイナーの山本寛斎が手掛けた。
 1917年、柴田徳次郎が創設した私塾の國士館と旧制中学が母体になっている。58年、国士舘大学(体育学部)が開設され、61年に政経学部、63年に工学部、66年に法学部、文学部を設置して総合大学に。
 広報担当理事の安西博見が大学と改革を語る。「過去に不祥事もありましたが、十数年前から国士舘ブランドの再構築などの改革を行ってきました。ブランド再構築では、女子学生が多く入学すれば質のいい男子学生も入ってくるのでは、との考えもありました」
 安西は昔の逸話を披露した。「女子学生が初めて入学したとき、一部の学生は『女子学生はいらない』と創設者に直訴。『君らにはお母さんがいないのか。本学は、立派な母親、立派な女性教員を育てなければならない』と諭されると、すごすご引き下がったそうです」
 国士舘大OBには、高校教員も多い。「優秀な女子学生を送り込んでくれています」(安西)。20年前、女子学生は文学部に二割程度いたが、他の学部は数える程。受験生の数が約5万人の92年ごろ二割近くになり、現在、学生数1万3500人の三割弱を占める。
 なぜ、増えたのか。「学内施設の整備もありますが、入試広報が15年前から、全国の高校訪問のさい、常連の高校以外に、近くにある女子高でも積極的な募集活動を行ってきました。同時に、大学の宣伝広報に女子学生を登場させるなどリニューアルしました。こうした地道な活動が実を結んだと思います」(安西)
 大学改革は、創立80周年を迎えた97年から始まった。00年に体育学部に武道学科・スポーツ医科学科を増設。02年、21世紀アジア学部を新設。08年には体育学部に、こどもスポーツ教育学科を新設、「知育、体育、徳育、食育」を学び、小中学校、高校の教員免許が取得できる。
 「こうした改革のバックボーンにあるのは、『個性と魅力あるオンリーワンの国士舘大学』をめざす、という考え方です。他の大学にないものを、教職員が力を合わせて創造し、学士力と人間力を持った学生を育てて送り出したい」(安西)
 スポーツ医科学科は、救急救命士(受験資格)を取得できる。四年生大学では日本初。09年の東京マラソンでタレントの松村邦洋に救命措置をしたのは毎年ボランティア活動を行う同学科の学生とOBだった。学科開設以来、救急救命士の国家試験合格率は七割以上を維持している。
 08年度の消防官合格者数では全国の大学で一位、警察官合格者数では二位。「ガテン系公務員に強い大学」といわれる。ちなみに、警察官のトップは日本大学。日大とは「合格者数か合格率か」で競っているそうだ。
 08年に梅ヶ丘校舎が完成、政経・法・文学部の一、二年生が世田谷に移った。全学部で、4年間同じキャンパスで学ぶことができるようになった。「教育環境がよくなり、学生にも好評です」と広報課長の渡邉俊弘。
 広報部門も大学改革に沿って改革した。大学新聞はカラー化、年4回、各10万部印刷する。学生向け情報誌「うごパン」を発行、年5回、各キャンパスで配布。うごパンは、「動いてパンセ」の略。学生が、より充実した大学生活を送り、国士舘大学をもっと知ってほしい、という思いで作った。
 渡邉は「新聞、情報誌ともに学内外で評価されています。小さいことですが、いつか役に立つ、と思い取り組んできました。学外発信も大事ですが、学内広報も大切だと思います」と語る。
 学外広報では、教育内容、研究成果を発信するため、「ドキュメント国士舘」と「授業ルポ」の二本立てで、HPや交通公告で告知。「オープンキャンパス、受験者の増加に繋がっている。HPは全国の大学人気サイトのベスト10に2年連続で入っています」(渡邉)
 国士舘大といえば、大学スポーツ。バンクーバー冬季五輪には残念ながら出場者はいないが、北京五輪には、柔道で石井慧、鈴木桂治、内柴正人、シンクロナイズドスイミングの川嶋奈緒子の4人(OB含む)が出場、石井と内柴は金メダルに輝いた。伝統の柔剣道以外でも硬式野球、アメフトは強豪だ。
 女子選手では、砲丸投げの森 千夏が忘れられない選手。06年8月、癌のため急逝、享年26。陸上競技のウェブサイトには森 千夏のページがいまだにある。走り幅跳びの池田久美子の追悼文が載っている。
 「森ちゃんと私で約束したよね。北京五輪で森ちゃんが20m投げて、私が7m飛んで、メダル目ざそうよ、って。二人で約束したよね。でも、森ちゃん…、森ちゃんは、それができないから、私が絶対に北京五輪でメダルを取って、森ちゃんのお墓に報告できるように、私頑張るから。だから森ちゃん、ずっと陸上のこと好きでいてください」
 涙なしに読めない、凄い弔辞だ。安西が言葉少なに語った。「森 千夏は、みんなに愛されたアスリートだった。こうした先輩がいることは国士舘の誇り。うちの学生は、もっと自信を持っていい」
 創立100周年に向けて、昨年12月、「広報戦略プロジェクト」がスタート。舵取り役の安西は「100周年の事業は、記念式典や記念誌編纂という単なるお祝いにしたくない」と、続けた。
 「ブランド力を高め、アイデンティティーを確立し、それを社会や保護者、卒業生に訴え、学生には自信を持たせるようなものにしたい。一人ひとりが広報マンになる土壌もつくりたい」。更なる改革をめざす国士舘大は、更なる飛躍をめざす。

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