平成22年2月 第2391号(2月17日)
■干支の弁
イノベーションと寅年
最近パソコンやディジタルカメラなどのメモリ容量が100ギガバイト(ギガは10億)を超え、また簡単に録画できる薄型テレビが当り前になったことに気付かれた方が多いと思います。
これは垂直記録による超小型のハードディスク(HDD)が普及したためで、私が垂直記録方式によれば超高密度の記録ができるという着想を得たのが寅年の昭和49年でした。今年干支が三巡りして、それが完全に社会に溶け込んでいるのを見ることは、発明者としての大きい喜びです。
科学技術に関する長期戦略指針の策定をめぐってイノベーション論が盛んですが、それは「技術の革新のみならず、新たな価値を生み出し社会的にも大きな変化を起こすこと」と定義付けられているようです。
垂直記録の発明によって、世界的にHDDだけでも十数万人の雇用、年間数兆円の経済効果さらにライフログなどの新しい学術研究分野や生活スタイルなどが創出されており、これは明らかに革新的な着想が生み出したイノベーションが社会を動かした実例と言えるでしょう。
今年で科学技術基本計画の第三期を終えますが、来る第四期の基本姿勢として、これまでの科学技術政策「知の創造」から、社会とともに創る「科学技術・イノベーション政策」への転換が論ぜられています(科学技術・学術審議会)。
先の実例で分かるようにこのことは私が昔から主張してきたことですが、幸いこれは日本私立大学団体連合会の賛同を得たようです。
そのためには、基礎研究における科学的発見や発明をもとに、その成果を具体的なイノベーションにつなげていく実用化環境の整備が必要ですが、政権交替前の民主党の主張にもそれが明示してあるので、現政府のもとでの実現を強く期待するものです。その際に先に述べたイノベーションの実例が参考になれば幸いと思っています。