平成22年2月 第2390号(2月10日)
■新刊紹介
重いテーマを問う
「差別と日本人」
野中広務・辛淑玉 著
前号に続いて、ベストセラーを取り上げる。タイトルのように、部落差別を中心に、この国で行われてきた(いる)差別について、野中広務と辛淑玉が体験を語りつつ、差別を問う。
対談形式になっているが、辛が野中に、様々な差別を質す形で進む。野中がたじたじになる場面も。テーマごとに辛が付記する「注釈」によって、部落差別の実例や歴史を学ぶことができる。
まえがきで、野中は〈部落出身者であってもまじめに真剣に働け。それでも差別されたら、その時は立ち上がれ〉、辛は〈差別とは、富を独り占めしたい者が他者を排除するために使う手段、する側には暗黙の快楽なのだ〉、それぞれ信念を吐露する。
〈自分が有名になればなるほど、僕の出自がマスコミを通じてわかるようになってきた。次第にうちの家族は、親戚やいろんなところから冷たい眼差しをむけられるようになってしまった〉という野中の言葉は、胸に突き刺さる。
野中広務物語にも読める。〈永六輔さんが「あの人(野中氏)が、あちら(権力側)にいてくれるだけで、なぜか気持ちがホッとしていた」と語っていた。この人なら、私たちの気持ちをわかってくれるのでは、と多くのマイノリティーが野中氏にすがった〉。この注釈にある辛の心が全体を流れている。
読み終わって、二つのことを思った。野中のような政治家がいなくなったのは、この国にとって不幸だ。こうした時代を撃つ、重たい本がベストセラーになったことは、この国も、まだまだ捨てたもんじゃあない。
「差別と日本人」 野中広務 辛淑玉著
角川oneテーマ21
п@03―3238―8555
定価 724円(税別)
角川oneテーマ21
п@03―3238―8555
定価 724円(税別)