Home日本私立大学協会私学高等教育研究所教育学術新聞加盟大学専用サイト
教育学術オンライン

平成22年2月 第2389号(2月3日)

新刊紹介
  憂国の一冊
  「人間の器量」
  福田和也 著

 本屋に入ると、好位置に積んである。ベストセラーだが、大学と関連はあるのか? なければ取り上げるのは躊躇するところ。だが、あった。
 江戸時代、佐賀鍋島藩は藩士の教育に熱心だった。〈熱心な余り、成績不良な学生の家禄を半分にする、といった罰則まで設けていた〉、〈こうした厳しい教育から、幕末から明治にかけて活躍した大隈重信や江藤新平といった俊英が生れた〉
 著者は、〈翻って戦後60年の平和は、奇跡経済成長の後、急速に翳りを増した。その核心に人材の払底があるのは疑いをいれない〉、そう、器が大きい人物が減った今の時代を憂える。
 慶大教授の著者だが、早稲田の創設者の大隈を〈官僚としては近代以降では一番優秀な人〉と評価するのは微笑ましい。
 一章の「なぜ日本人はかくも小粒になったのか」で、戦後の教育、戦死に対する覚悟や貧困・病苦への怯えのなくなった時代をあげて論じる。そう受け止めた。
 二章の「先達の器量に学ぶ」では、西郷隆盛の無私、伊藤博文の周到、原 敬の反骨、松永安左衛門の強欲、田中角栄の人知などを取り上げる。田中角栄では〈田中の作り上げた政治の仕組みが大きな意義のある行政を残したのは事実だが〉、〈半径1mより外に、その光輝を伝えられなかった〉と惜しむ。世上を騒がす一番弟子の小沢一郎氏に読ませたいもの。
 最後に、器量人十傑を明治から今日までの三時代で掲載。[大正・昭和戦前]の7位に、終戦時の首相、鈴木貫太郎があった。著者の視座の確かさにうなった。

 「人間の器量」 福田和也著
 新潮新書
 п@03―3266―5111
 定価 680円(税別)

Page Top