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平成22年1月 第2388号(1月27日)

高めよ 深めよ 大学広報力〈58〉 こうやって変革した55
  東北に、しっかり軸足
  社会に貢献する人材育成 学科や事務局を改革
  東北芸術工科大学

 経営の厳しいといわれる地方の小規模な大学。東北地方にあって小規模でありながら、独自の存在感を示している二つの大学がある。東北芸術工科大学(松本哲男学長、山形市上桜田)と国際教養大学(中嶋嶺雄学長、秋田市雄和椿川)。最初に東北芸術工科大学を取り上げる。「単に東北地方に立地する芸術・デザイン系の大学ではない。人類の良心による芸術と工学の運用によって、社会に貢献する人材を輩出する」と高い理想と大きな志を持って、それを具現化している。マスコミに登場する著名な教員も多く、学生も全国から集う。スローガンに「東北ルネサンス」を掲げる東北芸術工科大学に、改革の歩みとこれからを聞いた。
(文中敬称略)

著名教授は学生に人気

 東北芸術工科大学は1992年に開学、山形県と山形市が設置費用を負担、学校法人東北芸術工科大学が運営する日本初の公設民営の私立大学。芸術学部・デザイン工学部の二学部に約2000人の学生が学ぶ。
 広大なキャンパス。市街地を眺望するように正面広場と池、そしてランドマークである三角屋根の本館が立つ。訪問して目を奪われた水上能舞台「伝統館」。能など伝統文化の公演や、三味線やジャズなどのコンサート、学生の展示スペースや発表の場としても利用されている。
 事務局長の五十嵐眞二が大学を語る。「本学が掲げる『東北ルネサンス』は、地域社会と共生しながら、地域の歴史や文化に育まれた精神と叡知を理解し、新しい世界観の創生へと結集させて次世代に手渡す、その決意です。日本文化の源流ともいえる東北の地にしっかりと軸足を置き、芸術とデザインの力で、現代社会の抱える様々な課題を解決できる人材を育成したい」
 デザイン工学部は09年度、グラフィックデザイン学科、映像学科、企画構想学科を開設、従来からのプロダクトデザイン学科、建築・環境デザイン学科を加えて五学科に。開学以来の大きな改革だという。
 グラフィックデザイン学科は、第一線で活躍するデザイナーらの指導で、創造的なデザイン力を、映像学科は、映画、CG、アニメーションや写真などのメディアを横断的に学ぶとともに、実社会とのコミュニケーション力を、企画構想学科は、商品企画や広報宣伝の情報計画からイベントのプロデュースなどメディアを使い、モノゴトを企画構想する力を、それぞれ養う。
 映像学科の教員には、映画監督の根岸吉太郎、企画構想学科には放送作家・脚本家の小山薫堂らがいる。「根岸先生、小山先生といった名前の知られた教員はメディアにもよく登場します。慕って受験する学生も多く、肩書きに本学の名前が出ることで、知名度アップにつながっていると思います」(五十嵐)。
 週刊文春(09・9・17)で、大宮エリーとの対談に出た小山薫堂は「大学休んだやつがいたりすると電話をかけて、焼肉とか食べに連れて行ってるんですよ…」と話していた。このあたりも学生の人気になっているのかもしれない。
 事務局も改革に動く。昨年10月、教務課、学生課、就職支援室を再編統合して教学事務室にした。学生の面倒をみる担当職員を各学科に一人(8学科に8人)置く。入学から就職まで継続的に学業や就職活動を支援するのが狙い。五十嵐が説明する。
 「就活が本格化する三年次になって、就職指導の職員が学生の前に現れる体制を変えました。メンタル面や単位取得に問題を抱えている学生がいても、そうした事情がわかれば個別の指導ができると思います」
 独自性が際立つ大学。同大が主催する「全国高校デザイン選手権」は「デザインとは、ものの色や形を決めるだけの行為でなく、社会の多くの人々と共有できる問題を発見し、それを解決していくプロセスに本質がある」の考えで主催、今年で16回目。例年、全国から多くの高校生が参加、活発な意見を交わす。
 芸術学部は3学科ある。美術科は、「豊かな自然の中で、人間性と創造力を培いながら創作技術を高め、文化創造の表現者を育成します」と豊かな自然の中での教育を強調する。
 美術史・文化財保存修復学科は、専門家による指導のもと、美術史と保存修復の両分野に精通した人材を育成。歴史遺産学科は、世界遺産やマタギなど、ユニークなテーマに精通する指導陣と共に一年次からフィールドワークを行い、歴史、考古、民俗・人類の三分野を学ぶ。
 このように、他の大学にはない学科やコースが多い。それは受験生や学生の出身地にも現れている。学生の出身地は山形県が三割、山形以外の東北が三割、それ以外の沖縄から北海道まで全国が三割だという。
 「うちの大学の教育・研究は、中央志向と地方志向が合わさったようなところがありますが、学生の考え方や出身地も、おなじような志向がありますね」という五十嵐の言葉に、思わず肯いた。
 地域貢献もユニークである。カリキュラムの一つとして、プロジェクト型演習を実践。企業や自治体、地域など外部と連携して、フィールドワークを通して社会の課題に取り組む。そのひとつ「蔵プロジェクト」は、使われていない蔵を改修し、用途を変えて保存するというリノベーション。
 京都造形芸術大学とは姉妹校である。「東北の大地から湧きあがる縄文の響きと、京都から発する文芸復興の鼓動が相呼応し、やがて日本の魂を大きく揺り動かす力となることを確信しています」(徳山詳直・理事長)と助け合い、ノウハウを互換しあっている。
 広報も健闘している。「プレスリリースは、毎週ひとつは出すようにしています。発信は、全国にはホームページやEメールで、地元では教職員が直接、現場と対話することを心掛けています。教育・研究にはニュース性あるものが多いので、これからも『表現を学ぶ大学』を訴えていきたい」(広報室長の中嶋健治)
 中嶋の努力もあってか、最近、二つの話題が新聞などに大きく取り上げられた。@東北芸術工科大学と京都造形芸術大学が東京の明治神宮外苑に合同キャンパス「日本文化芸術研究センター」を新設(09年11月掲載)A東北芸術工科大学と山形県が、世界最高水準の「エコハウス」を建設(10年1月掲載)。
 五十嵐が最後に、大学広報を語った。「少子化の厳しい時代、小手先のやり方では通用しない。学生は四年間で何を得られるか、どうすれば大学として社会そして学生から支持され、選ばれるか。教育の中身を伝え、そのための広報をやっていく。教育の改革はこれからも止めない」。ユニークで独自の存在感のある大学だが、広報は王道を往く。

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