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平成22年1月 第2386号(1月13日)

新刊紹介
  回想記に依存は?
  「1968(下)」
  小熊英二著

 約束したように、「1968」の下巻を読む。東大闘争に象徴される全共闘運動から連合赤軍まで若者の叛乱を描き、下巻は高校闘争からウーマンリブまで。
 昨年話題の「1Q84」(村上春樹著)と間違って買う読者がいるというが、それはありえない。上下二巻は同じだが、量感が違う。上下で2000頁超。
 下巻では、様々な叛乱のなかで、「連合赤軍事件」を取材した経験があることから、連合赤軍の項を深く読む。「あの時代」を振り返った。
 茫々40年前、新聞社の前橋支局時代。逮捕の連合赤軍の女性リーダー、永田洋子の「自己批判書」を入手した。新左翼系でなく人権派弁護士への連日の「夜討ち朝駆け」が実った。
 ずっと疑問だった。完全黙否の永田洋子が、なぜ、昔は労農運動で活躍したという老弁護士に胸襟を開いたのか。二人の間に、琴線に触れる何かがあった?
 むろん、著書に、この自己批判書のことは書かれておらず、積年の疑問は氷解しなかった。上下巻を通して気になったのは、やはり著書のかなりの部分が運動家らの回想記に頼っていた点だ。
 評論家の福田和也は、近著「人間の器量」(新潮新書)で、〈09年、新左翼の歴史を扱った大著が出て、ちょっと評判になりました。この著者、文献は完璧に渉猟しているのだけど、直接の取材は一切していない。(中略)学者たるもの、文献さえ押さえていればよいという事なのでしょうが。〉
 学者の器量をも問うた福田の言葉に思わず膝をたたいた。福田の言を拳拳服膺すべし。

 「1968(下)」
 小熊英二著
 新曜社
 03―3264―4973
 定価6800円+税
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