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平成22年1月 第2386号(1月13日)

高めよ 深めよ 大学広報力〈56〉 こうやって変革した53
  来年度、学科を大再編
  女子学生の比率高める 幅広く学べる体制に
  足利工業大学

 地方の大学経営の厳しさは年を追うごとに高まっている。地方の単科系大学は、なおさらだ。「地方と共に歩む大学」を標榜する足利工業大学(牛山 泉学長、栃木県足利市)も生き残りに懸命だ。就職に強い大学として知られているが、昨今の景気後退は同大の高い就職率にも少なからず影響。さらに、受験生動向にも波及、これまで全国各地から押し寄せた受験生は地元志向が強まり、足利市内に下宿する学生が減少。そうした逆風の中、足利工業大は「地域と共に」を合言葉に、学科の再編や就職指導の強化など新たな改革を行い、新しく生まれ変わろうとしている。「地方と共に歩む大学」のこれからを広報担当者らに聞いた。
 (文中敬称略)

「地方と共に歩む」大学

 足利工業大学は、足利仏教和合会が1925年に設立した足利実践女学校が礎。1967年、工学部の単科大学(機械工学科、電気工学科、建築学科)として開学。聖徳太子が憲法十七条に示した「和を以って貴しと為す」の教えが建学理念。学内中央に「聖徳太子像」が建立されている。
 「日本で一番古い学校『足利学校』のある文化の薫り高い地に、仏教諸宗派の寺院が協力して設立した大学で、教養ある、心あるエンジニアの育成が使命。世の中に役に立つ技術者と創造的な研究者を育てるのが目的です」(牛山学長)
 事務局長の桜井潤一が大学を語る。「親切できめ細かな教育が特長です。研究意欲のある学生には、大学院進学を支援。学部卒業後、直ちに就職を希望する学生には、潜在能力を引き出して、技術者として自信と誇りを持って社会で活躍できる教育をしています」
 同大の就職率の高さは定評がある。07年度(08年三月卒業)就職内定率は、99.0%を確保した。週刊読売ウイークリー「就職に『超』強い大学400」で全国二位になった。
 就職指導について、入試企画・実施委員長の建築学科教授の新藤忠徳が語る。「独自の就職データベースを駆使。資格取得支援では、TOEICを受ける学生のためにTOEICに備える科目を用意、選択科目として設定し、単位も取れるようにしました。授業には出てこないような疑問についても、関連する教員がアドバイスするなど、きめ細かな指導を行っています」
 教員試験へ向けてのサポートでは、教員採用ゼミを実施。工業大学の強みを生かし、電気電子工学科とシステム情報工学科の二学科では、従来の工業に加え情報の教員免許も取得できるようにした。
 一昨年来の景気後退は学生の就職にも及ぶ。かつては全国区だった受験生は、近年は栃木、群馬、茨城の三県中心にシフト。「今年は苦戦しています。地方の単科系大学は厳しい。東京、神奈川、千葉などの工業系単科大との競争がより厳しくなっている」(桜井)
 18歳人口の減少に伴う大学間の競争は、改革を促している。これまでも、同大は、開学時の3学科から機械工学科、電気電子工学科、建築学科、都市環境工学科、システム情報工学科の5学科にするなどの改革を行ってきた。来年度から学科の再編という大きな改革を構想している。
 「現在の五学科体制を変える大きな改革になります。学生がこれまで以上に幅広く学べる体制に変えます。時代のニーズに沿った改革で、大学が生まれ変わる、といってもいいかもしれません」と桜井が説明する。
 5学系11コースに
 現在の5学科を、1学科5学系11コース体制にする。5学系は、自然エネルギー・環境学系、生命システム学系、情報システムデザイン学系、機械・電気工学系、建築・社会基盤学系になる。
 コースは、こうなる。自然エネルギー・環境学系は、自然エネルギー・環境コースができ、風力、水力、太陽光、バイオマスなどの技術と知識を習得。英語力を身につけ、国際的エンジニアの育成をめざす。建築・社会基盤学系は、建築学、空間デザイン、土木工学の三つのコースに分かれ、各分野の技術者を養成する。
 「学科再編では、女子が志願しやすいコースを設けたり、女子学生が快適に学べる学内環境を作る予定。現在、女子の比率は3〜4%と低いので、これをもっと高めていきたい」と桜井。
 ところで、「地方と共に歩む大学」は、どのように展開されてきたのか。足利市内の空き店舗を活用した事業は、足利旧市街の活性化に一役買っている。建築学科教授の和田昇三研究室が取組む。
 02年、足利市通2丁目のいぶきビル一階に「活き街工房α」がオープンした。足利の歴史と文化を発信、文化活動の場、市民との交流の場とするという三つの目的で、工房内で歴史や文化の展示を行ってきた。
 「活き街工房α」は今年で8年目。出店当時は、いぶきビルの空き室は50%だったが、現在は75%に増えた。「これが現実ですが、ふるさと足利の旧市街地をなんとかして活性化したいという思いは市民と共有し続けたい」(和田)
 花火大学院を開設
 花火大学院も地域貢献がらみでユニークだ。足利花火大会は関東屈指の花火大会で観客動員数40万人を数える。06年、大学院機械工学専攻煙火学専修を開設、煙火学を幅広く研究・教育している。大学院修了者の多くは花火会社に就職して活躍している。
 学長の牛山は「風車博士」と呼ばれ、風力発電など再生可能エネルギー研究の第一人者。キャンパスには「風と光の広場」がある。太陽光発電と風力発電の実験施設で、小学生から高校生までの環境教育の見学、実習にも利用されている。
 地域との関係を、副学長の蟹江好弘が語る。「教育文化の拠点として立地する都市における社会教育面での影響は大きい。地元企業の委託研究等を介して産業への貢献。学生によるボランティア活動などによる地域貢献、地元企業への就職と定住効果もある。いま、『大学のあるまち』の意味がクローズアップされている」
 新藤が最後に話す。「本学へ来たら、こういう勉強をして、こうやって社会に出て行く、というように入口から出口まで、そして教育の中身をもっともっと伝えたい。学科再編は、そのきっかけになるはず」。「地方と共に歩む大学」の学科再編の改革は、広報部門をも変えようとしている。

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