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教育学術オンライン

平成22年1月 第2385号(1月1日)

大学を取り巻く国際交流の潮流
  JAFSA

中小規模大学と国際戦略/特定非営利活動法人JAFSA JFKプログラム・ディレクター 塩川雅美

JFKという活動
 現在、私は、JFKというプロジェクト・チームにおいてプログラム・ディレクターを務めている。JFKは、大阪、神戸、京都の主に中小規模大学の有志によるチームによって進められている。プロジェクト誕生は、JAFSA40周年を記念する一連の事業が2008年度に展開されるという計画が話題になった2007年に遡る。
 JAFSAは、今や、日本の国公私立大学の約三分の一が所属し、日本における国際教育交流についての最大にして最も歴史ある団体へと成長した。しかし、組織の拡大に伴って、当初の会員相互の「顔の見える」情報交換や、自発的な「手弁当の勉強会」に代わり、理事会や委員会で計画された「全国の会員対象」の研修や講演会が、主な活動となりつつあった。
 そんな中、2007年夏、関西学院大学を会場に、JAFSAの年間事業のメインに位置づけられている全国の会員を参加対象としたサマーセミナーが開催された。同セミナーの準備や実施に関わった関西圏のメンバーの中から、自主的に関西でもJAFSA初期の「参加者相互の顔の見える研修」を実施しようと声が挙がった。その結果、神戸市を開催地にした研修「JAFSA Forum in KOBE(略称:JFK)」を実施するための会員有志によるプロジェクト・チームが関西圏の中小規模私立大学の会員と、国立大学の若手職員をメンバーとして2007年12月に発足した。
 プロジェクト・チームは、本務を抱えながらも精力的に準備を進め、2008年7月に全国から約100名が集い、JAFSA Forum in KOBE(JFK)が開催された。この研修実施に向けて、メールや休日の「顔を合わせた」打ち合わせ会議で、研修内容の検討や、準備のための意見交換を重ねるうちに、メンバー間に強い連帯意識が生まれたことは言うまでもない。その連帯意識は、研修の準備や実施のために「業務に協働であたる」というプラクティカルな意識の共有にとどまらなかった。
 研修の分科会テーマ等を議論する過程で交わされた「中小規模大学の国際化とは?」、「国際交流部署の適正な人員配置とは?」といった課題は、中小規模大学の国際交流担当部署に所属する者として、メンバーが日ごろ抱える問題意識であったことから、「JFKが目指す研修は、中小規模大学の国際交流担当者が参加したい研修にしよう」という共通認識へと発展した。その時期は、「留学生30万人計画」や「国際化拠点整備事業(グローバル30)」が発表され、話題となった時期でもあった。
 そのような状況の中、JFK研修のテーマは、「どないやねん!? 国際化〜Why Internationalization?〜」と設定された。この関西弁の「どないやねん!?」には、「(国際化が)どうなっているのか?」と状況を尋ねるニュアンスと、「(国際化について、本音のところでは)どう思っているのか?」と真意を糺すニュアンスが含まれている。「グローバル30」に、手を挙げることのできる大手(大規模)大学と、「グローバル30」どころか、日々「国際化って、本当に本学に必要なのだろうか」と悩む中小規模大学があるという現実を踏まえて設定されたテーマである。それは、「国際化は、果たして全ての大学に必要なのか」、「留学生の受け入れ拡大は、果たして全ての大学が、取り組むべきなのか」といったテーマ設定におけるメンバーの熱い議論の中で出てきたものだった。
中小規模大学の「国際化」とは
 「個性輝く大学づくりの推進」といいながら、大学の規模や歴史、立地条件などの異なる要素を考慮せず、「今や大学にとって『国際化』は、避けて通れない課題である」ということ自体が、問題ではないのか。
 そもそも、各大学で異なるはずの「国際化」の在り様や、到達度合を確認するための指標の設定がなされないまま、「国際化しなければ」という強迫概念のようなものが独り歩きしてはいないか。中小規模大学であっても、個々の大学が目指す「国際化」は、本来、それぞれの大学で異なるはずであるし、そうあるべきである。
 必ずしも、「英語で受講できる科目を開設する」ことや、「外国籍の教職員を雇用する」ことや、「海外の交流協定校の数を増やす」ことのみが「国際化」ではない。
 中小規模大学が「国際戦略」について考える際、まず取り組まねばならないことは、「果たして本学には、国際化は必要か」という土台の十分な議論である。その土台が必要であるとなれば、「では、本学において、どういうところを“国際化したい”のか」を明確にし、「どの状態になれば、“国際化した”といえるのか」という目標の達成度を測るための指標の設定が必要である。
 例えば、「留学生の受け入れ数を現在の倍にし、その留学生の出身国数も現在の倍にし、多様な文化背景を持つ学生が共に学ぶキャンパスにする」というように、具体的に「国際化」が達成された時のイメージを教職員が共有できるようにする。このような具体的な目標を立てれば、自ずと、その目標を達成するために必要な手段が描け、その手段を実行するために必要となる人員、予算などが見えてくる。
 しかし、目標を設定しても、予算や人員を増やすことが容易でない場合が多々あるだろう。その場合に、中小規模大学“だからこそ”できることを洗い出すことを提案したい。一例を挙げれば、大きなキャンパスで、何処へ行けば、自分の困っていることが解決されるかわからない環境よりも、小さなキャンパスであっても、教職員の顔がよく見え、すぐに自分の困っていることの解決への助言や支援を受けることができる環境のほうが、留学生にはありがたい。そのようなキャンパスを実現するために、教職員が一丸となって、各自が学内の手続きなどについて熟知し、在籍留学生に自らが「ワン・ストップ・サービス」の担い手となって接することで、新たに予算や人員を投入して「ワン・ストップ・サービス」を設置しなくても、同様なサービスの提供が実現できる。このような取り組みは、在籍留学生の口コミという強力な留学生獲得のための広報につながる(在籍している日本人学生にとっても「面倒見の良いキャンパス」と評価されることにもつながっていく)。
 留学生の出身国数を増やすために、海外に出かける予算がないならば、日本語学校や、在日外国公館を訪問したり、在外日本公館に大学資料を小まめに送付することもできるだろう。中小規模大学“だからこそ”できることを洗い出し、できることから始めることは重要である。
 受入れ留学生数を増やすためには、宿舎の整備が必要であるとしても、自前では宿舎の建築などできないというのが現実であろう。その場合には、学生向けの宿舎を提供している不動産業者なども学生数の減少により、入居者確保が困難になりつつあるという悩みを抱えているのだから、業者と大学が契約を結び、「留学生の入居契約に際し、連帯保証人を要求しない」というような措置を講じるように働きかけ、留学生を悩ます「保証人問題」を解決し、宿舎を建設しなくとも、留学生が入居しやすい宿舎を増やしていくことができる。
 あるいは、留学生対象の「日本語教育」を自大学だけでは整備し得ない場合には、近隣の日本語学校や、地域の日本語ボランティアとの連携を検討してみてはどうか。中小規模大学の多くは、地域に根付いた成り立ちがある場合が多いので、地域の「資源」を活用した取り組みは地域にも歓迎されることが多いと思える。
 留学生の受入ればかりではなく、「日本人学生を海外に送り出したいが、海外との交渉を行える人員がいない」場合もあるだろう。幸いにも在日公館等の文化・広報担当セクションは、日本人留学生の確保に前向きなので、同セクションに「送り出し」プログラム開発への支援を相談することも検討するに値する。
 このように、「小さい」がゆえに「小回りがきく」という特徴を生かし、「顔の見える」交渉で、学外の組織や機関、地域を巻き込んでいくことができるはずである。
 ただし、複雑な決裁段階を経ないと意思決定ができないというような場合には、「国際戦略」の手始めに「迅速な意思決定」や「(交渉担当者への)権限の移譲」に取り組むべきである。海外協定校との交渉をうまく運ぶために、意思決定が迅速であることの重要性は、国際的な交渉の場で「与党内の見解の相違」という国際的に通用しない理由を挙げ、国際交渉に支障をきたしている新政権を見ても明らかである。
JFKの活動の進展
 ここで、再びJFKの活動について触れておきたい。
 2008年のJFKの研修は、「中小規模大学からの参加者」を想定して企画が進められ、多くの参加者が実際に中小規模大学から参加されたこともあり、参加者の多くから「顔の見える」ネットワークの重要性を再認識したと感想が寄せられた。また、JFKプロジェクト・チームのメンバー自身も「大学を越えて事業を成し得た」達成感を強く感じ、「自分の所属大学の後進にも類似の体験を経験させたい」と思うようになっていた。
 その結果、2009年度も引き続き、関西における自主的な研修の企画、実施プロジェクトとして、JFKの活動が継続されることとなった。人事異動もあり、メンバーの入れ替わりも若干あったが、同チームは中小規模大学の職員を中心に構成され、「中小規模大学の参加者のための研修」の企画という方針は継承された。変化したものは、研修実施に協働(連携)して取り組むというJFK誕生の契機から、「お互いの後進を協働で育てる」という新たな目標が加わったことと、プロジェクトの略称はJFKのままであるが、フルネームをJAFSA Forum in KOBEからJAFSA Forum in KANSAIへと変更したことである。
 したがって、JAFSAが、「国際教育交流担当者が必要とする知識等の修得を目的とした研修」を実施しているのに対し、JFKでは、「国際教育交流担当者ではない方でも聴いてみたい講演」などを実施すると年間計画のコンセプトが立てられた。なぜなら、必ずしも、研修を受講した参加者が「国際教育交流担当者であり続ける」保証もないのが現実であり、むしろ、大学に勤務する者として、たまたま現在のポジションが国際教育交流関連であるがゆえに、JFKの研修を受講するとしたら、研修で見聞きされたことが、部署を異動しても役立つものであるような研修にしたいと、メンバーの意見が一致したからだった。
 こうして、09年4月は「英文E‐Mailの書き方」、6月は「イギリスの大学職員事情」、7月は「勇気を持ってSpeak Out!」(日本人の英語が、英語を母語としない人の英語の中で、最も通じるという研究の講演会)、9月は「関西外国語大学の国際戦略」などの研修を平日の夜に実施した。
 宿泊を伴う研修としては、8月に「(国際交流担当の)初任者研修」を1泊2日で、12月には2泊3日で「国際化を越えて」というテーマのもと、俯瞰的に日常業務を見直し、「国際交流担当者」としての行動指針のヒントをつかんでいただくような研修を実施した。これら一連のJFKの研修への参加回数の多い若手職員から、所属大学内であっても滅多に顔を合わせない同僚よりも、研修参加者同士のほうが顔を合わせる機会が多くなり、「国際交流担当者」としての共通の日常業務に関する情報交換から、徐々に「協力して、勉強を続けよう」という機運が生じてきているという嬉しい報告をいただいた。中小規模大学の場合、特定部署の研鑽のためだけに外部講師を招いたりすることは予算的にも実現しにくいが、いくつかの大学が協力して講師を招き、研修を実施することもできるということを、研修参加の若手の方々が発見してくれたことは、大きな成果であった。
 中小規模大学が、「国際戦略」を練る場合、自大学のみの資源で実現できないことも、他大学との連携やチームを創ることで実現できる可能性があることを再度、確認いただきたい。仮に、学生募集の側面では競合する大学間であっても、「国際化」の側面では、補い合うこともあってもよいのではないか。チームを組むことや連携することは、必ずしも「仲良しグループ」になることと同じではない。目的達成のためにお互いが、足りないものを補うために連携をしているということを認識し、それぞれの目的を達成し、成果を出すことが重要である。
目指せ! ダイヤモンド
 「留学生30万人計画」を受けて、多くの大学では、どのように取り組んでいこうかと検討されていることと拝察している。
 今更ながら恐縮であるが、「ダイヤモンド」は小さくても手に入れたい宝石である。昨今の「安売り」現象がはなはだしい小売業界などを見ても、大手メーカーがプライベート・ブランドの製造を請け負って品質の保証をしたり、デザインを有名アーティストに依頼するなどのオリジナリティを付加しないと、単に価格が「安い」だけでは、商品は売れていない。
 留学生数を増やすために、限られた財源から授業料の減免などを行っても、「留学して良かった」と留学生が思える教育内容や、受入れ環境(資金を投じるハード面だけではない)の整備がないと、本来の留学目的ではない留学生を呼び込んでしまう。「英語での授業」も授業内容を日本語に翻訳すると大学で教授するレベルではない内容の授業であるならば、「学問の質」に疑問符がつくこととなる。
 「留学生30万人計画」も、現在、目の前にいる留学生をきちんとケアし、満足度を上げることによって少しずつではあろうが、数は伸びてくる。仮に、大手大学のみで、大量の留学生受入れをし、「30万人」という数字を達成しても、日本の高等教育機関の9割を占める中小規模大学の「顔(存在)」が世界に認識されないということを、「国際戦略」を考える機会に思い起こしていただき、「小さくても手に入れたいダイヤモンド」となる戦略を練っていただきたい。


JAFSA(国際教育交流協議会)
 JAFSA(会長=白井克彦早稲田大学総長)は、主に学生の国際教育交流に関する情報交換や研修等の活動を行っているこの分野唯一のネットワーク組織で、2008年に設立40周年を迎えた。会員(正会員・団体)数は、国公私立大学を中心に、232大学・団体(2009年12月16日現在)に上る。http://www.jafsa.org/

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