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平成22年1月 第2385号(1月1日)

従来の枠組みを超えたパラダイムの転換を

 日本私立大学協会会長/文化女子大学理事長・学長 大沼 淳

 加盟校の皆様、おめでとうございます。昨年は「新」の漢字一字で表現される世相であったと言われましたが、振り返ってみますと、我々私学にとって「新」と言えるような明るい出来事はあまり無かったのではないでしょうか。
 加盟校それぞれには、創立記念の新たな出発、新学部・学科の開設等はあったかもしれませんが、私学全体にとって希望を抱けるような新たな制度や施策の展開は何一つ無かったような気がします。
 新しい政権が誕生し、来年度の予算編成に向けての「事業仕分け」に代表される脱官僚の政治主導となり、従来のような考え方が通用しなくなっていることはありました。しかし、政権が変わったからと言って、教育の継続性が断たれて良いわけではありません。「教育は百年の計」であり、安易な改変は許されません。少なくとも教育現場の声、社会の声に耳を傾け、後顧の憂いが無いようにすべきなのです。
 戦後60余年、諸外国を含めていろいろな面で社会情勢は激変しているにもかかわらず、教育基本法そのものは改正をされたものの、そのほか教育の根本の枠組み・システムの改革は無かったように思います。その意味で中央教育審議会の「中長期的な大学教育の在り方」に関する審議には、今後の変革を含めて大いに期待しているところです。特に「質の向上」は、恒久的なテーマであり、私学団体としても取り組んでまいりました。
 一方で、このテーマに関連して「情報公開」がクローズアップされています。「教育・研究の公開」と併せて、「財務の公開」としてその具体的在り方までもが叫ばれているようですが、果たして一律に規定すべきものでしょうか。考え方や方向は定めても、その在り様は各大学に委ねてよいのではないでしょうか。
 国公私の公費助成格差や都市圏、非都市圏の違いによって生じる格差、さらに経済的な格差などがある状況で、制度化して一律に規定することには無理があるのです。
 かつて、大学審議会の「我が国の高等教育の将来像」答申で言われた機能別分化によって、大学それぞれのスタンスがあり、そのことを配慮する必要があると思うからです。
 さて、私立大学は、わが国の高等教育の約77%の学生の人材育成という重い責任を担っています。その責任を果たしていくためには、やはり私立大学への公財政支出の拡充を挙げなければなりません。昭和50年(1975年)に私立学校振興助成法が制定され、私学への公費助成が「経常経費の2分の1」まで補助できると附則で規定されましたが、残念ながら現状は約11%に止まっています。高等教育全体でも対GDP比で0.5%であり、OECD加盟28か国中、最低(OECD平均は1.0%)なのです。
 さらに学生一人当たりでみると、わが国全体では、平均54万円(OECDの平均87万円)ほどですが、私立大学だけでみると、わずか14万円と言われています。このことは、私費負担の大きさを物語っていることにほかなりません。公教育を受ける学生への公費の使い方にこれ程の格差があってよいものでしょうか。
 いずれにしても私立大学を取り巻く状況は相変わらず厳しく、対応すべき課題は山積しています。従来の枠組みを超えたパラダイムの転換ともいうべき方策を模索し、団体としての役割を果たさなければならないと決意しています。
 最後に、加盟校の益々のご発展と皆様のご健闘を心より祈念して年頭のご挨拶と致します。

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