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平成21年12月 第2384号(12月16日)

新刊紹介
  街でなく町を愛す
  「きのふの東京けふの東京」
  川本 三郎 著

 東京の「街」ではなく「町」を歩いたエッセイ。著者は言う。〈「町」は生活の味がある。「街」はおしゃれ過ぎる。「街」か「町」かでは、「町」がいい。「町」を大事にしたい〉
 三章からなり、一章は、東京新聞の連載、二章は、雑誌「荷風」に書いたもの、三章は、雑誌「東京人」と同「荷風」に書いたものから選んだ。
 新聞連載のタイトルは「東京どんぶらこ」。歩く町は、町屋、六本木、有楽町、新小岩、浮間、竹ノ塚、狛江、落合など、下町が好きな著者には珍しく都心や山の手も入っている。
 共通しているものがある。キーワードにすれば、「永井荷風」、「映画」、「居酒屋」。荷風が歩いた坂道、山田洋次監督の「下町の太陽」の舞台となった町の息吹、もつ焼き、モツ煮、ホッピー、チューハイ…の旨い店。読んでいても、どんぶらこ、と心地よい。
 二章は「きのうの盛り場」。南千住にあった東京球場、新宿のガスタンクと浄水場、両国の国技館などを、「かつて神保町界隈にあった映画館のこと」というように懐かしんで描いている。感傷でなく、時代と社会を捉える確かな目がある。
 三章「作家たちの東京」は、荷風、林芙美子、芝木好子、向田邦子、小津安二郎、溝口健二らが登場。「深川 荷風のいた風景」の締めくくりに、著者の思いがこもる。〈風景そのものは失われたかもしれない。しかし、風景の記憶はいまもわれわれに受け継がれてゆく〉
 世の中には、何々評論家を名乗る輩が多い。川本には、こちらから映画、文学、社会に加えて居酒屋の各評論家の「称号」を与えたい。いずれも本物である。紹介するときに悩みそうだが、どんぶらこ。

 「きのふの東京、けふの東京」
 川本三郎著
 平凡社
 03-3818-0874
 定価1600円+税

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