平成21年12月 第2384号(12月16日)
■高めよ 深めよ 大学広報力〈55〉 こうやって変革した52
スポーツが学問に波及
広報も大改革 公務員、司法試験で成果
山梨学院大学
地方にある大学で、これほど全国に名の知られた大学は少ない。箱根駅伝での活躍で『全国区』になった山梨学院大学(古屋忠彦学長、山梨県甲府市)。箱根駅伝を嚆矢にカレッジスポーツの躍進はさまざまな効果を大学にもたらした。大都市圏の大規模ブランド大学と同じように全国から数多くの受験生が集まるようになり、スポーツ各部の頑張りは学問にも波及。学生の間に「やればできるんだ」という意識が高まった。スポーツ強化と並行して行った就職力の強化、学生チャレンジ制度の新設、法科大学院の開設などの改革もあって、次々に成果を生んだ。公務員就職者数で全国四位、新司法試験合格率で一九位などがそうだ。こうした成果を全国に伝えてきた広報部門も改革を行った。これまでの大学の、そして大学広報の改革の動きと、今後について広報担当者に聞いた。
(文中敬称略)
箱根駅伝の活躍で“全国区”
JR中央本線「酒折(さかおり)」駅から徒歩約3分で山梨学院大に着く。それより驚いたのは、東京・新宿と甲府を往復する高速バスのバス停が大学の正門前にある。文字通り『駅前大学』とある大学案内に間違いはない。
山梨学院大は、1946年創立の山梨実践女子高等学院が前身。これを母体に51年に山梨学院短期大学(栄養科)を、53年に法経科を増設。62年に短期大学法経科を四年制大学の山梨学院大学(法学部法学科)に改組した。
65年、商学部商学科設置認可、90年、法学部行政学科設置認可、93年、商学部経営情報学科を改組し経営情報学部を設置認可、07年、商学部商学科を現代ビジネス学部に改称、現在、3学部4学科に約3900人の学生が学ぶ。来年度、健康栄養学部管理栄養学科を新たに設置する予定。
山梨学院大を“全国区”にした陸上競技部の駅伝は、87年の第63回大会以来連続出場、総合優勝も三回。来年は、23年連続、23回目の出場になる。
PB(パブリシティ)センター長の小林 一が箱根駅伝効果を語る。「箱根駅伝での活躍は、志願者増にもつながりましたが、それだけでなく県民の間で「私たち、地域の大学」という意識が強まりました。仕事などで他県に出掛けたときに、「山梨から来た」というと、「あの駅伝の山梨」と言われるので、マスメディアの情報に食い入り情報通に、そしてファンになったという人がいます」。
駅伝の強化は、いつ、どのように始まったのか。小林が「意外と古いのです」と説明する。「86年に古屋忠彦学長が、これから到来する大学氷河期から生き残る道を示した『大学進化革命』を発表。ここで、『個性派私学の旗手』をスローガンに『地域に貢献する存在感ある大学をめざす』という誓いを立て、その柱のひとつに駅伝をはじめとするカレッジスポーツの強化を掲げました」
この87年の改革は「今日の山梨学院大の礎になった」(小林)。教育理念やUIを確立させ、コンピュータ導入などの業務改革も行った。「(指導者は)育てる、(学生は)育つキャンパス」という山梨学院ブランド・イメージが、このときから徐々に浸透していった。
小林は「本学のカレッジスポーツは駅伝だけではない」という。「陸上はもとより、レスリング・ホッケー・水泳・スケートなどでオリンピック選手を夏季15名、冬季12名輩出しています」
駅伝をはじめとしたスポーツ部の活躍は学問のほうにも波及した。「やればできる、という意識が学生間に高まっていきました」と小林は、次のように数字で成果を示した。
〈新司法試験合格者35名 09年合格者12名[受験者46名、合格率26.1%(19位)]、08年合格者7名[受験者40名、合格率17.5%(47位)]、07年合格者10名[受験者31名、合格率32.3%(32位)]、06年合格者6名[受験者11名、合格率54.5%(16位)]〉
〈公務員就職者数 09年度93人、02年3月卒業者卒業後の進路アンケート、河合塾調べで法学部は中央大学、東京大学、京都大学に次ぐ第4位にランクされる〉
小林は、スポーツ強化以外の教育改革について話してくれた。「04年に法科大学院を開設、法科大学院の図書館や自習室は24時間開放して昼夜問わず学習や研究ができます。現代ビジネス学部は経済産業省主催の『社会人基礎力フォーラム』で社会人基礎力育成グランプリに輝きました。
また、学生支援の一環として『学生チャレンジ制度』があります。学生自らがチャレンジしたいことを企画書にして提出すると審査が受けられ、認定されたものには奨励金が支給されます。03年度の文科省の特色GPに採択されました」
キャンパス内にFM局
地域貢献も熱心で、山梨学院大らしさがみられる。『エフエム甲府』のスタジオがキャンパス内にある。生涯学習センターによるラジオ講座などレギュラー番組三本を担当。コミュニティ放送局が大学キャンパス内に設けられた第一号である。
『酒折連歌賞』は連歌の発祥の地といわれる地元の酒折の地名から名付けた。98年、衰微(すいび)している連歌をよみがえらせ普及し、文学の振興、文化の創造のために創設。「10回目の昨年は、海外を含めて5万句を超える応募がありました。地域の文化活動を支援していくのも、地域とともにある大学の役割です」(小林)
PBセンターを設置
大学の様々な改革を説明してくれた小林だったが、広報部門も昨年4月に大きな改革を行っている。学園の情報発信の一本化などを目的に、これまでの広報室を発展的に改組して『山梨学院パブリシティセンター』を設置した。
同センターの役割を語る。「山梨学院は早くからPRをpublic relations(入試広報)と、press release(公式発表)を明確に棲み分けてきました。入試センターが入試に特化した入試広報を担っています。パブリシティセンターは、学生や教職員の情報や大学の取り組みを、マスコミを通じて全国に報道してもらいます。これは自動車の前輪と後輪の関係にあります。また、広報スタジオの開放など地域の文化活動をサポートして社会への貢献度を高めています」。
取材で通されたのが広報スタジオ。クリスタルタワーの7階にあり、箱根駅伝など活躍するスポーツ各部のユニフォームなどとともに、活躍が掲載された新聞雑誌を見ることもできる。ここは、市民、地域のNPOや文化団体にも開放されている。
小林は、これまでの大学広報を語る。「学生や教職員の真実を、プレスリリースを通して市民に伝えてきました。昨年は地元紙一社で年間800以上が記事掲載され、地元テレビ二局で200本以上のニュースが流れました。こうした報道を通じて、市民が大学の情報通になり、知らず識らずに私たち大学のスポークスマンとして活動してくれています」
地域とともにある大学
そして、これからの広報を「今まで以上に、経営理念や教育理念など大学の全体像を明確にし、学園内外にアピールしていくアイデンティティー・パブリシティーであることを目指し、地域を山梨から近県に、そして全国に、さらには海外に広げて、『地域に愛される大学づくり』に貢献したい」
地方にありながら、全国区であり続けるのは、『地域とともにある大学』という志が、大学の、そして、広報のバックボーンになっているからではないのか。