平成21年12月 第2384号(12月16日)
■仲林・平野両教授(放送大)インタビュー
リメディアル教育はお任せ!
UPO―NETは新しい学習スタイルだ
UPO―NET(オンライン学習大学ネットワーク:Association of Universities for the Promotion of Online Learning)は、放送大学ICT活用・遠隔教育センターが、高等教育機関でのeラーニングの普及・拡大を目的に行う事業である。現在は試行的に利用でき、来年四月より本格スタートを予定している。UPO―NETの利点や使い方について、同センターの仲林 清教授と平野秋一郎特定特任教授に話を聞いた。
●特徴
UPO―NETは、図のように放送大学が持つeラーニングコンテンツを、全国の大学に供給するネットワークである。コンテンツは一二コース400以上。主にリメディアル教育を充実させており、中学・高校の物理、化学、数学、英語などを受講できるほか、日本語検定、TOEIC、初年次教育やキャリア教育といったコースも用意している。
現在は試行期間中で、大規模から小規模までの国公私立大学21校1万5700名が参加している。設置形態だと圧倒的に私立大学が多い。高校時の履修科目や入試科目が学生によってバラバラだから、学力を一定にするためのリメディアル教育を行いたいというニーズがあるようだ。更に、コンテンツの作り方を教えて欲しいという実践的な問い合わせも増えてきた。
しかし、UPO―NET、ひいてはeラーニングへの誤解を感じることもある。
eラーニングを導入しさえすれば、放っておいても“勝手に”学生が学習を行う、というものだ。普段から学習しない学生は、eラーニングでも学習しない。eラーニングは自学自習のための教材ではなく、より効果的な学習の手段として利用するものである。つまり、教員が指導を行うということは変わらない。例えば、対面授業ののち、授業内容を深めるため自宅でeラーニングで、ということもある。学生の学習を深めるために授業をデザインするのは教員である。我々としても、どのような組み合わせが効果的かは研究を重ねて発信していきたいと考えている。
「これまでの授業をやめて、全てパソコンで学習させるつもりか」と憤る教員がいるが、それも誤解である。eラーニング推進者の多くは、学習における本やプリントの利点、鉛筆で書くことの重要さを否定していない。あくまで、「どうしたら学習が深まるか」の方法論の一つがeラーニングなのである。
それではeラーニングのメリットは何だろうか。最も特徴的なのが、学生の学習履歴を逐一管理でき、どこができないか、どこでつまずくかが明確になるということだ。テスト結果のみならず学習過程を確認できるから、学習者の側に立ったきめの細かい指導が可能になる。また、なかなか学習が進まない学生を集中的に指導することもできる。
更に、実は教員は楽ができる。教材やテストを作ってプリントして採点をする、という手間が省けるからだ。教育の中のルーティンの部分はコンピュータに任せ、学習における創造的な部分に、より時間を費やすことが出来る。
一方、UPO―NETをはじめ、eラーニングと馴染まない学習もある。「じっくりと考えさせる」学習である。学生が自ら深く考えなければならないタイミングに、どんどん「答え」を出してしまう教員がいるが、それは誤りである。「ここは電気を切ってじっくり考えよう」ということも必要である。当然だがeラーニングは万能ではない。
UPO―NET導入を検討されている大学関係者には、まずUPO―NETで何がしたいのかを考えて頂きたい。「導入すれば“何か”が何とかなる」と漠然と考えるのではなく、「何を教育目標に何をどこまで伸ばしたいのか」の予測をもとに導入しないと成功しない。
●コストは
4月からの本格稼動では、有償化を検討している。学習管理システムはオープンソース(無料)のMoodleを使用、一コースあたり学生一人半期600円を想定。民間のサービスと比較すると格段に安くなるように工夫している。
リメディアル教育を行うにあたり、UPO―NET導入より、非常勤講師を雇う方がコストが安いという意見も伺う。しかし、学生に本当に学習をさせたいのであれば、UPO―NETを導入した方が結果的には効果がある。それは新しい学習スタイルの提案でもある。講師の講義は「聞くだけ」になりやすい。繰り返すが、eラーニングは学習履歴を確認でき、学習プロセスを吟味することで、学生はどこで躓いているかが分かるツールである。教員が教えることと、それが学生の身につくことを支援することは別である。
早々に入学が決定した高校生の入学前教育でも活用が可能だ。この場合は高校生の所属する高校で、パソコンを使用させてもらえるように依頼することがポイントになる。このあたりの連携は非常に重要だし、eラーニングを介した高大連携は、効果も上がりやすく、双方にメリットがあるのではないか。
●キャリア教育への応用
今後コンテンツ開発に力を入れたいのが、キャリア教育だ。今の学問、あるいはビジネスで求められていること、例えば、経済学とは何を学ぶのか、社会のニーズは何かなど、あるいは、どのような人生を歩んできたかを編集してコンテンツ化することを考えている。
UPO―NETは、新しい教育の形態の提案であり、我々としては教育改革の支援である。「全く分からないのでまずは(導入前に)教えて欲しい」という問い合せも多いので、気軽に問い合せて頂ければと思う。