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平成21年12月 第2383号(12月2日)

新刊紹介
  あの現象は何であったか 「1968(上)」
  若者たちの叛乱とその背景
  小熊 英二著

 どこで読む本か。通勤時やベッドの上では心身ともに重たい。これからは書斎をつくり読書に勤しむ団塊世代向けか。2000頁を超え、重さは1.4キロ。
 序章で、あの時代の叛乱は風俗現象でも世界革命でもなく〈「生きづらさ」のいわば端緒が出現し、若者たちがその匂いをかぎとり反応した現象である〉
 第一章で、〈同世代中多く見積もっても4〜5%しか「全共闘体験」がないなら「全共闘世代」という呼称は当然不適切である〉
 この二つの指摘は、胸にすとんと落ちる。著者の〈あの現象が何であったかを社会科学的に検証し、現代において汲みとれる教訓を引き出す〉試みは成功している。
 一方、取り上げた慶大闘争を〈一般学生の高揚とバリケード〉、早大闘争を〈学生セクトのデパート〉、日大闘争を〈大学民主化闘争〉、東大闘争を〈思想の表現と自己否定〉と捉えるのは納得したが、新しい見方ではない。
 こうした大学闘争や新左翼問題の「常連」ともいえる三上治、鈴木博雄、高橋徹、大野明男、宮崎学、内藤国夫、立花隆らの記述やコメントが多用されるのと関係しているせいかと、ちょっと気になった。
 膨大な資料から、中核派大幹部の北小路敏の結婚式の模様など時代を映す様々な事象を細細と、かつ的確に拾い上げる丁寧な仕事ぶりには敬意を表する。
 〈批判するなら本書を通読し全体を把握してからあとに〉、〈ささいな事実誤認など小さな次元で反発や批判より〉とあったが、著者の自信は、読者には余計なおせっかい。下巻を読んで全体を把握して批判しようか。

 「1968(上)」
 小熊英二著
 新曜社
 電話03-3264-4973
 定価6800円+税

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