平成21年12月 第2383号(12月2日)
■高めよ 深めよ 大学広報力〈54〉 こうやって変革した51
ここ10年の改革で変貌
女子学生も増加 大学変わる時は広報も
明治大学
これほどイメージが変わった大学も珍しいのではないか。明治大学(納谷美学長、千代田区神田駿河台)といえば、バンカラな男くさい大学という印象が強い。しかし、いま、おしゃれで明るい、女性の志願者も多い都心型大学というように変貌している。首都圏出身の学生が七割を占め、今年度の「進学ブランド力調査」では関東地区で志願度NO.1になった。なぜ、このように大きな変化を遂げたのだろうか。さまざまな改革が原動力になったのは言うまでもない。これまでの改革の取組みと、これからの展望、そして広報の役割を広報担当者に聞いた。前回の早稲田大学と同じように、小規模、中規模な大学に役立つことを取材から引き出すことにも腐心した。
(文中敬称略)
リバティタワー関東で志願度NO.1
明治大学は1881年(明治14年)に創設された明治法律学校が前身。創立者は岸本辰雄・宮城浩蔵・矢代 操。岸本は鳥取藩、宮城は天童藩、矢代は鯖江藩といったように3人とも地方出身者だった。「方言の聞こえる大学」といわれた所以は、ここに淵源を発する。
現在、法学部・商学部・政治経済学部・文学部・理工学部・農学部・経営学部・情報コミュニケーション学部・国際日本学部の9学部。約2万9000人の学生が駿河台、和泉、生田の三つのキャンパスに学ぶ。
経営企画部広報課課長の黒田仁一が大学を語る。「かつて、明治大学と言えば、バンカラ大学のイメージでした。しかし、いまや、駿河台校舎のリバティタワー(地上23階・地下3階)に象徴されるように都心型の明るく、開かれた大学になっています。男女比は、かつて8対2程度でしたが、最近は男子6.5に女子3.5というように女子学生が増えています」
黒田は、「明大の改革は遅れていました。それこそ、この10年間に、一気呵成に改革を行いました」と、10年間の明大の改革を時系列で示した。
1998年 リバティタワー竣工
1999年 明大リバティアカデミー設立
2004年 情報コミュニケーション学部設置
2007年 全学部統一入学試験を実施
2008年 国際日本学部設置
2009年 国際化拠点整備事業の採択
「リバティタワーが出来る前は、学部ごとに校舎が分れていましたが、タワーの完成で、全学部の学生(三、四年生)が同じ建物で学ぶようになりました。合わせて、トイレをきれいにするなど学生が安心して学べる空間をつくりました。これらも女子学生が増えた要因のひとつかもしれません」(黒田)
99年設立のリバティアカデミーは、いまや生涯学習の柱として、年間390講座を開講、2万人を越える市民らが学び、都心型大学の象徴的存在にもなっている。
全学部統一入試の実施は、志願者を大きく増やすことに繋がった。06年までは7万から8万人台を推移していたが、全学部統一入試を採用した07年の志願者は10万2451人と初めて10万人を突破。国際日本学部を設置した08年も新学部効果で10万人を維持した。
「09年は心配だった」(黒田)が杞憂に終わった。10万人を超えた。一連の入試を含めた改革が功を奏した。08年の国際日本学部設置は、文科省の09年の国際化拠点整備事業(グローバル30)の採択に結びついた。改革が次々に結果に繋がった。
いま、明大が力を入れているのは、国際化と研究の強化。国際化では、海外からの留学生の受け入れを10年後は4000人にする計画で、学長直属の国際連携機構を立ち上げた。研究では、三つあった研究所を、これまた学長直属にして研究・知財戦略機構に一本化、意識改革を行い、研究費も充実させた。
ところで、関東地区で志願度NO.1になった「進学ブランド力調査」はリクルートが関東、東海、関西で、卒業予定の高校生7万4000人に進学意向を聞いたもの。驚いたのは、関東地区で、明大が「おしゃれ度」で、6位になったこと。
「青山学院、慶應、お茶の水、上智、立教の次にランクされました。OBの方は驚いていると思います。これまで、スポーツの明治、就職の明治、そして方言の聞こえる大学などといわれてきましたから」と黒田は苦笑した。
その「スポーツの明治」はしばらく低迷期もあったが、最近、復活の兆し、あり。硬式野球部は東京六大学野球秋季リーグで優勝、駅伝は全日本大学駅伝で三位。サッカー部も天皇杯でJ2所属のチームを破る快挙。ラグビー部もかつての名選手、吉田義人を監督に迎え、古豪復活をめざしている。
黒田が解説する。「体育会は43部あります。スポーツの明治の伝統は大学の財産です。学生スポーツ振興の面から野球、ラグビー、駅伝を強化3部に指定して財政的支援を行う一方、09年からスポーツ特別入試を導入しました」
「就職の明治」も健在。こう続ける。「キャリア支援力を強化するため就職キャリア支援部を新設。司法試験や公認会計士、公務員試験の指導体制も強化。地域と明大の相互活性化をめざすUターン就職もしっかりサポートしています」
このところ、明大の話題がマスコミに、よく露出する。「東京国際マンガ図書館」(仮称)設立は新聞各紙で、商学部の商学実践店舗「なごみま鮮果」は新聞やNHKラジオで、それぞれ紹介された。スポーツ振興担当の柳沢敏勝副学長の「大学体育会の役割」のレポートは全国紙に大きく掲載された。
広報も変わった。アイドルグループのAKB48を使った明大を紹介する番組を制作してCS放送で流した。メンバー4人が“明大教授”になって学生に講義するなどキャンパス生活を描いている。
経営企画部広報課の野見山智道は「少子化で大学経営が厳しくなっていく時代、ブランド構築には芯を定めて様々な取り組みが必要です。今回は早いうちから明治に親しみをもってもらおうというねらいもあります」
黒田は「大学が変わるときは広報も変わらないと駄目。そこで、予算を持つ宣伝機能も広報が持つ、というような改革に取り組みました」と付け加えた。
最後に、中小規模の大学にも参考になることについて触れたい。黒田は取材中、「うちの大学は改革では他の大学より遅れていました」、「広報体制も正直なところ遅れていました」と淡々と語った。
ようするに、謙虚なのである。広報マンのあるべき姿のひとつ。部下の野見山は、本紙の「大学広報力」の連載に「ぜひ、明大を取り上げて欲しい」と何度か電話をかけてきた。会ってみると、穏やかな人物で戸惑ったが、このひたむきさもまた、広報には求められている。
広報活動(広報宣伝費用)で受験生をどれだけ効率的に集めているのかを比較検証する「志願者一人当たりの獲得コスト」で、最も獲得コストが少ない大学が早大(1681円)で、つぎが明大の1706円だった。トップの大学(3万5625円)との差は歴然だ。
その明大広報が、謙虚さとひたむきさで、それこそ明大ラグビーの「前へ」の精神で圧している。このあたり、他の大学も学ぶべきではないのだろうか。