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平成21年12月 第2383号(12月2日)

日本独自のFDネットワークのあり方
  米英のFD大会(POD SEDA)に参加して(上)

青山学院大学ヒューマン・イノベーション研究センター客員研究員 佐藤万知

 1999年に大学設置基準によってFDが努力義務化されて以来、日本ではFD担当者による地域ネットワークやコンソーシアムが各地で立ち上がっている。現状では、これらに専門職組織としての意味合いはなく、FD活動の共催や事例紹介、情報交換の場として機能している。一方、1970年代からFDが活発に取り組まれているアメリカやイギリスでは、FD担当者は専門職であると考えられ、FD担当者のための全国レベル専門職組織として、アメリカにはPOD、イギリスにはSEDAが存在する。毎年それぞれ年次大会を開催し、FDの手法等や専門職としてのコンピテンシーなどについて議論や情報交換を行っている。このたびは、それぞれの年次大会に参加した青山学院大学ヒューマン・イノベーション研究センターの佐藤万知客員研究員に、それぞれの参加体験と、専門職としてのFD担当者や全国レベルのFD専門職組織の役割と日本への示唆について寄稿していただいた。

 米国:POD
 POD(The Professional and Organizational Development Network in Higher Education)は1976年に設立された全米のファカルティ・ディベロッパー(Faculty Developer)、FD担当者のためのネットワークで、出版、年次大会、コンサルティング、情報交換、資金提供を通したメンバーへの支援、高等教育機関における教授方法や学習活動の質の向上などに貢献することを目的としている。
 第34回大会は「Welcoming Change: Generations and Regenerations」をテーマとして、10月28日から11月1日までテキサス州ヒューストンにあるホテルの20の会議室を貸し切って開催された。参加者649名中38名が日本からで、その他にもタイ、香港、チリ、カナダなどから参加していた。七割程度が女性参加者であった。限られた期間で密な交流ができるよう、会場の設営や自由時間の使い方に主催者側の工夫が見受けられた。
 例えば、大きなパネルボードが三台設置されて、それぞれに「五年後のPODの姿」「ファカルティ・ディベロッパーの仕事を何かに例えると?」「FDを絵で描くと?」という題目が貼られていた。参加者はポストイットを使って自分の意見を書き、ボードに貼っていくことができる。これが会話のきっかけとなって、初対面でもFDに関して話ができるようになっていた。その他にも、会場の外に飲み物のコーナーがあったり、メッセージボードが設置されていたり、空き時間を使った観光ツアーや早朝のヨガクラスなど、参加者同士の交流が促進される仕掛けが随所に用意されていた。
 大会プログラムはワークショップ、個別セッション、ポスターセッションが同時進行となっている。その他に、昼食・夕食を兼ねた講演会が三回、朝食を兼ねたディスカッション・グループがあり、連日みっちりと詰まったスケジュールである。ここでは、私が参加したセッションを中心にそれぞれの特色について触れたい。
 ワークショップ
 ワークショップは14のテーマに分かれていて、参加者は事前申込が必要である。テーマとしては「組織改革におけるディベロッパーの役割」「授業計画のための新しいフレームワーク」「経済不況下のFD活動方法」などが設定され、企画者からの情報提供、その内容を踏まえたグループワークや意見交換が3時間半かけて行われた。
 私は、年次大会の初参加者や新任FD担当者を対象としたワークショップに参加した。これは他のワークショップに先駆けて大会前日の午後に始まり、二日間かけて実施された。体系だった新任研修というより、ベテランのディベロッパーが自分の体験談などを交えつつ、ファカルティ・ディベロッパーという仕事の説明や、FD活動をうまく行うためのアドバイスを教授する形式であった。
 「ようこそPODへ。今日からあなたたちもこのコミュニティーのメンバーです。PODのメンバーはみなあなたたちの仲間です。これからの五日間、遠慮せずに、いろいろな人と話をして、多くのことを学んでもらいたいと考えています」。そんな言葉とともに、同じ赤い色で揃えた服装の男女二人がファシリテーターとなって、二日間にわたるワークショップが始まった。続けて男性が、「今、同じテーブルに座っている人たちが、これから二日間かけて実施されるワークショップの仲間だと思ってください。ですから、今日の終わりまでに、それぞれのテーブルの名前を考えてください」と説明した。
 ワークショップでは、「FD担当者として必要な知識とスキル」「FD活動の広報」「FD活動の評価」など様々なトピックについて、ベテランのFD担当者から話があったが、「コミュニティー」と「仲間」という言葉が繰り返し使用された。他の参加者に感想を聞いたところ、「具体的な手法が学べるわけではない点で物足りなかったが、他のFD担当者たちも試行錯誤でやっているのだということや、PODに来れば他のメンバーからアイディアやサポートを得られることが分かり良かった」と述べていた。
 個別セッション
 75分の個別セッションでは、「FDプログラムと予算」「教授法とテクノロジー」「評価方法」「教授法の改善」「非常勤を対象としたFD」「組織開発」など14のテーマにおける様々な実践の取組紹介、問題提起、ディスカッションが行われた。私が出席をした「Preparing for Faculty Roles in a Time of Change」では、カリフォルニア州立大学バークレー校およびデルモア大学の大学院生を対象とした職能開発の取組が報告された。事例紹介の後、「これからの大学教員に求められる資質は何か」「大学院生に適したティーチングの訓練とは」「今後、大学教授職を目指す学生にとって適切な訓練プログラムとは」といった内容で議論した。多くの参加者から、自分の所属する大学の同様の取組や、今後、新たに着手しようとしている取組についての質問や提案がだされた。また、大学院生対象のFD活動に関するデータベースや学会などの紹介もあり、参加者全員が知恵や知識を出し合って大学院生対象のFDプログラムについて考える建設的なセッションであった。
 個別セッションの中には参加者が数人のものから、会場に入りきらないほど集まっているものまであり、FD活動にも流行の波があることが窺い知れた。今大会は、大学院生を対象としたFD活動、テクノロジーを利用した教授方法、FD活動の評価方法をテーマとしたセッションに、特に多くの参加者が集まっていた。
 ポスターセッション
 ポスターセッションは三日目午後に行われ、28枚のポスターが展示された。FDに関する取組紹介や研究発表が主で、例えば、「オンラインで行うFDワークショップのデザイン」「学際的な教授方法の開発」「eラーニングにおける教授方法に関する考察」などがあった。PODの初参加者にとって、ポスターセッションに出展することは、自分の所属する機関の取組を知ってもらったり、他の参加者たちと知り合いになったりする良いきっかけになる。ワークショップや個別セッション同様、参加者は「どうすればこの取組(もしくは研究)が、より良いものになるのか」、「自分の大学でも取り組むことができる内容なのか」といった実践的な関心を持って、ポスターの説明を聞いていたように思われた。
 (つづく)

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