平成21年12月 第2383号(12月2日)
■教養教育を再考する
大学教育学会が課題研究集会
大学教育学会(小笠原正明会長)は、去る11月28日、29日、大阪市の御堂会館ホール、大阪市立大学において、2009年度課題研究集会を開催した。統一テーマは「学士課程における教養教育再考」。全国より関係者およそ300名が参加し、熱心なディスカッションが行なわれた。
同学会は1979年に「一般教育学会」としてスタートし、主に教養教育や一般教育の議論を重ねてきた。中教審の答申名にもなった「学士課程教育」は、その議論から誕生したコンセプトでもある。創立30周年を迎えたこのたび、学士課程における教養教育の再考をテーマに据え、三つのシンポジウムの中で議論を深めることとした。
まず、特別講演に大阪大学の鷲田清一総長が「教育への問いかけ」をテーマに登壇。鷲田総長が考える「教養」観について触れた。「教養とは、(すぐに答えを求めるのではなく)『分からない』という状態に耐え、価値観を押し広げていくこと。大学では、この「知性のしぶとさ」を鍛えることが大切だ」とし、分からないことを分からないままに正確に対処することが、現代における教養だと力を込めた。
続いて、シンポジウムTでは、「学士課程における教養教育のあり方」をテーマに、学術研究ネットの後藤邦夫氏(発表内容:「教養教育」の再定義とカリキュラムの設計、運営、評価)、国際基督教大学の藤田英典氏(発表内容:日本学術会議「21世紀の教養と教養教育」の課題)、大阪府立大学の奥野武俊氏(発表内容:同大学のカリキュラムデザイン会議発足から答申まで)がシンポジスト、大阪女学院大学の関根秀和氏がコメンテーター、国際基督教大学の松岡信之氏と同志社大学の山田礼子氏が司会を務めて行なわれた。
発表を聞いた関根氏は、「教養教育の共通した認識に立てず、大学教育の普遍性が崩壊している。教養教育の軸足をどこにおけばよいのかが難しい課題となっている」などと教養教育の難しさについて述べた。
シンポジウムUでは、「『学士課程教育』はどうあるべきなのか?」をテーマに、青山学院大学の杉谷祐美子氏(発表内容:『学士課程教育』というコンセプトはどのようにして生まれてきたのか〜歴史から現状へ)、同志社大学の山田礼子氏(発表内容:『学士課程教育』はどのような課題を提起しているのか〜現状から課題へ)、関西国際大学の濱名 篤氏(発表内容:『学士課程教育』のこれからの行方〜課題から解決(策)へ)がシンポジストに、東北大学の羽田貴史氏が指定討論者に、新潟大学の濱口 哲氏が司会を務めて行なわれた。シンポジストの過去から課題解決に至る発表を受けて、羽田氏から「学士課程教育と学部教育は対抗概念なのか?」「組織と課程の分離はメリットのみなのか?」など七つの論点が出され、それぞれについて議論された。
シンポジウムVでは、「「大学人」能力開発―学生を視野に入れて考える」をテーマに、立教大学の佐々木一也氏(発表内容:これまでのまとめと展望)、桜美林大学の本郷優紀子氏(発表内容:学生を視野に入れた職員企画の教職協働)、愛媛大学の秦 敬治氏(発表内容:「学生目線からのFDとSD」と、愛媛大学でFDのインターンをしている学生からの発表)が発表者、立教学院の寺棟ケ男氏が司会を務めた。発表の後、寺ア氏が「職員の専門化」と「学生をどう位置づけるか」の二テーマで議論することを提案、フロアとの活発な意見が交わされた。