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平成21年11月 第2382号(11月25日)

新刊紹介
  教師用指導書を撃つ
  「大人のための国語教科書」
  小森 陽一著

 面白そうだ、と購入した本が、読むのに意外と重たくて見込み違いというのはよくある。そうはいっても、もったいないから読む。そんな気分で読了。
 国語教科書に載っている「舞姫」、「こころ」、「羅生門」、「永訣の朝」、「山月記」といった名作を取り上げ、これらを学ぶ授業がつまらないのは、教師が使う教師用指導書が間違っているからだ、と指摘し、検証する。
 著者は、日本近代文学専攻で、文学研究の第一人者。「あの名作の“アブない”読み方」というサブタイトルは半分当たっていて、半分外れだった。
 森鴎外の「舞姫」を〈国家と家族を連動させた明治天皇制のイデオロギーの中に『舞姫』が位置づけられている〉という著者の解釈より〈近代的自我の未成立のストーリーとして扱われた〉とする教師用指導書の見方に傾いた。
 漱石の「こころ」の“アブない”ところに頷いた。乃木希典の殉死について書き込んでいる。
 〈殉死という日本の侍文化の死に方は、男性同士の同性愛の帰結といえる〉、
 〈武士集団は、成人した武士は元服前の少年を愛人として戦場に連れて行った〉と読者を引き込む。
 こうした考え方を、読みの過程で抑圧してしまえば〈『こころ』の持つ同性愛的な危うい読みの可能性も問われなくなる〉と“中締め”はよかった。しかし、結論は、ちょっと平板で、やや拍子抜け。
 芥川龍之介、宮沢賢治、中島敦の作品に対しても、指導書に提示されている解釈に対する疑問を詳細かつ重厚に示す。「大人のための」は「生徒のための」というタッチで平明端正に書いてほしかった。贅沢な注文か。

 「大人のための国語教科書」
 小森陽一著
 角川書店
 03−3238−8555
 定価705円(税別)

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