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平成21年11月 第2382号(11月25日)

高めよ 深めよ 大学広報力〈53〉 こうやって変革した50
  グローバル化に向け改革
  私立大の存在価値「個性」を掲げて堂々と
  早稲田大学

 他の大学から見れば、うらやましく映るのではないか。「大学の知名度は行き届いているので、教育・研究の中身をどう外部に伝えるかということに腐心しています」と早稲田大学(白井克彦総長、東京都新宿区)の広報担当者。こう言えるのも「私学の雄」の余裕かもしれない。そうは言っても、いったん不祥事が起これば、大学名とともに一段と大きくその内容がメディアに報じられるというブランド大学ならではの悲哀もある。二年前、創立125周年の大イベントを終え、早大広報は目下、「Waseda  Next  125」という中長期計画の訴求と徹底に集中している。早大の広報担当者に、そうした現状と今後について尋ねるとともに、小規模・中規模の大学の広報にとって何か参考になることはないか、を引き出すことにも傾注した。
 (文中敬称略)

「建学の精神」を生かそう

 早稲田大学は、1882年、大隈重信が立憲改進党を結成すると同時に創設した東京専門学校が前身。慶應大学と並んで日本の私学の双璧。政財界はもとより、文学、スポーツ、芸能といった各界に幾多の人材を輩出してきた。
 大隈銅像のあたりを歩くと、あらゆる言語が飛び交っている。日本語はもちろん英語、中国語、韓国語、イスラムの言語…ワセダのイメージが変わりつつある。13学部、学生数5万6000人、うち留学生は約3000人で、留学生受け入れ数では国内トップクラス。
 数年前から大胆な改革を行ってきた。04年には、授業のほとんどを英語で行う国際教養学部を新設。07年には理工学部を基幹理工、創造理工、先進理工の三学部に、旧来の第一文学部と第二文学部を文学部と文化構想学部に再編した。
 現在、進行中の改革である「Waseda  Next  125」で、今後数年以内に具体的に着手すべき重点施策を提示し、08年度から随時実施している。
 なかでも、力を入れているのが大学のグローバル化。広報室長の深川由起子(政治経済学術院教授)が説明する。
 「近い将来に受け入れ留学生数を8000人、外国人教員も二割まで増やす予定です。全世界からトップレベルの学生や教員が集まり、多様な学問、文化、言語、精神が交流するグローバルキャンパスWASEDAの実現を目指しています。一方で、日本から海外への留学・海外学習者も、現在の倍の年間2000人程度にしたい」
 グローバル化を支えるため海外事務所を次々に開設している。09年4月、タイのバンコクに事務所を設置。これで、海外拠点は、オレゴン、ニューヨーク、ボン、パリ、北京、上海、台北、シンガポール、バンコクの九ヶ所になった。
 教育・研究面はどうか。英語によるコミュニケーション能力の向上に特に力を入れている。「生きた英語」を使えるようにするため、学生四人に「チューター」と呼ばれる教員一人がついて週二回、90分づつ、徹底的に英語レッスンを行う『チュートリアル・イングリッシュ』が六学部で必須になっている。
 「世界標準」を目指す。東京女子医大と連携した「東京女子医科大学・早稲田大学連携先端生命医科学研究教育施設」は医学・医療と理工学の融合による生命科学や医工学など新領域の研究開発、さらに連携大学院事業を推進している。
 2010年度、附属・系属校の新設・改編が目白押しだ。早大高等学院は、附属校では初の中学部を開校。大隈重信の生誕地・佐賀県には、系属校として早稲田佐賀中学校・高校を開校。関西では、昨年4月の早稲田摂陵中学校・高校の系属化に続き、来春は男女共学をスタートさせる。
 深川は「もともと早大は全国各地から学生が集まる大学でしたが、最近では七割近くが関東圏出身の学生です。そこで、大阪、九州に系属校を設置して、地方を重視する早大の伝統の復活を図りました」と語る。
 ところで、広報活動で受験生をどれだけ効率的に集めているのかを比較検証する「志願者一人当たりの獲得コスト」で、最も獲得コストが少ない大学が早大(1681円)。トップの大学(3万5625円)との差は約20倍。
 広報面では優位だが、“有名税”もかかる。さきに、「早大マネーゲーム愛好会のOBが40億円荒稼ぎ」と週刊誌などに大きく報じられた。「卒業生が54万人もいるし…。知名度がある分、社会的責任も大きい。一人ひとりがそれを自覚しなければ。隙をつくらないよう、気を引き締めていくしかない」(深川)
 マスコミを賑わすといえば、〇七年に入学した野球の斎藤佑樹投手(早実)のハンカチ王子騒ぎのとき、広報はどう動いたのか。
 広報課長の村上裕二が説明する。「これまでは部の方で対応するのが原則でした。しかし今回は学生マネジャーが対応できるレベルをはるかに超えていたので、大学広報がサポートすることになりました」
 しばしば、慶應大学と比較される。「早慶をセットにして、おもしろおかしく書く企画が週刊誌などでよく組まれますが、両校の卒業生は楽しんで読んでいるのでは…。よきライバルとして、いい意味での競争をしていきたい」(村上)
 早大の広報体制を聞いた。「実務は広報課長が行い、広報室長は主に学内の調整・連絡の役割を担うとともに、課長からの報告をもとに、広報の大きな方向性を示すようにしています」(深川)
 「早稲田には、学生運動が盛んといったような過去の負のイメージもあります。そうした歴史は変えられませんが、大学・学生ともに様変わりしています。今の早稲田でどういう教育・研究が行われているのか、詳細かつ的確に伝えたい」と村上は語る。
 現在、Webのグローバル化にも熱心だ。「英字紙のWebにバナーを置いて、広告サイト『早稲田オンライン』の英語版を展開しています。本学の教員が自由に発言する『オピニオン』というコーナーが人気です。日・英合わせて月間で平均25万ページヴュー、海外からも多数のアクセスがあります」
 今後の早稲田、そして広報はどうあるべきか。深川が語る。「早稲田には、多様性という中にも共通項がある。誰が見ても早稲田という人物がいるが、ひとつの型にはめこもうとしないのは今も昔も変わらない早稲田のスタイル。だが、自由放任が許される時代でもなくなった。昔は誰にも干渉されずに学生が思い思いに四年間をデザインできたが、今は、英語、数学、文章作成など大学での学びの基礎となる科目の履修は半ば強制的に行っている。興味あることに勤しむ学生を縛り付けるようなことは今もしていません」
 村上は「これからは、卒業生や学生の父母に向けてより積極的に広報していきたい。大学のステークホルダーであるこれらの方々に、良質の教育のために大学が一丸となって必死に努力していることを伝えていきたい」と付け加えた。
 そうそう、冒頭の小規模や中規模の大学に参考になることだが、これを深川が語る。「補助金の額と学生の比率を見てもわかるように、私大と国立大ではイーブンな競争は無理。また経営面においても、独立法人化で国立大学の自由度が高まる中、互いに棲み分けをしていくしかない。だが私学は、それぞれ校風があり、建学の理念がある。こういう人材を社会に供給していきたいといった個性がある。これらは、私学にはカルチャーとして、伝統として脈々と受け継がれるもの。これが国立大と大きく違うところ」
 深川は、「私学には、国公立大学にはない建学の精神、個性がある。これを掲げて堂々と歩むべきです」と自然体で繰り返し強調した。

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