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平成21年11月 第2381号(11月18日)

新刊紹介
  「昭和の遺書」
  55の遺書に身震い
  梯 久美子著

 いまの大学生は学徒出陣や戦没学徒を知っているだろうか。学生時代に読んだ戦没学徒、林 尹夫の「わがいのち月明に燃ゆ」(筑摩書房)も取り上げられている。
 前号に続き「昭和」。著者は〈平成20年を語るより、20年前に終った昭和を振り返ってみたくなるのはなぜか〉と疑問を持つ。
 〈決していいことばかりではなかった昭和という時代をなぜ、いといしむのか。それは、個人の人生が歴史と激しく交差した時代だったからだろう〉に行きつく。
 昭和と限定したことを〈若い世代がこのようにおびただしい遺書を書く時代は、もう二度と来ないだろう〉。戦前、戦時中、昭和20年代というように六章に分け、遺書は55。
 新右翼団体「一水会」最高顧問で評論家、鈴木邦男は週刊誌の書評で、〈この時代、天皇を抜きにして日本はない〉と二・二六事件の磯辺浅一の絶叫を紹介、〈国民全てが天皇に期待し、甘え、抗議し、泣き叫び、胸を叩いた。それが「昭和」と言う時代だったかもしれない〉
 鈴木のように、ひとつ取り上げるなら、マラソンの円谷幸吉の「父上様、母上様、三日とろろ美味しゆうございました。干し柿、餅も美味しゆうございました…」で始まる遺書。
 著者も引用した作家、川端康成の「繰り返される《おいしゅうございました》といふ、ありきたりの言葉が、実に純ないのちを生きてゐる。そして、遺書全文の韻律をなしてゐる。美しくて、まことで、悲しい響きだ」。しかと記憶に刻まれている。
 梯は、硫黄島総指揮官、栗林忠道を描いた「散るぞ悲しき」(新潮社)でデビュー。この処女作が「55人の魂の記録」を編む力となった。55の魂を身震いする思いで読んだ。

 「昭和の遺書」
 梯久美子著
 文春新書
 03−3265−1211
 定価730円+税

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