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平成21年11月 第2380号(11月11日)

高めよ 深めよ 大学広報力 〈51〉 こうやって変革した48
  ユニット制で独自色
  差別化をアピール共学化など次々に改革
  大手前大学

 東京、大阪という大都市圏から外にある小規模な大学は生き残りに懸命である。各大学は独自色を打ち出し、存在感を高めるため、さまざまな生き残り策を模索している。大手前大学(川本皓嗣学長、兵庫県西宮市)は、「ユニット自由選択制」を採用して独自色を打ち出した。これまでの学部・学科の枠を超え、学生一人ひとりがそれぞれ自分だけのカリキュラムをつくることを可能にするというユニークなもの。これ以前には男女共学化という大改革があり、来年度からは文芸系、製菓学系(大手前大では学科でなく系という)を開設する改革がひかえる。小規模な大学の存在感を示した「ユニット自由選択制」の導入と成果、大学設立以来の様ざまな改革、それに広報はどう関わってきたのか、などを尋ねた。(文中敬称略)

小規模大学の生き残り策

 大手前大学は、創立者の藤井健造が終戦直後の1946年、「戦争のない社会を作るための女子教育が必要」と設立した大手前文化学院が前身。51年、大手前女子短期大学、66年、大手前女子大学が開学。
 2000年、社会文化学部を増設し、大手前大学に改称するとともに、男女共学に。建学の精神は『STUDY FOR LIFE(生涯にわたる、人生のための学び)』。
 07年には人文科学部・社会文化学部を改組し、総合文化学部・現代社会学部・メディア・芸術学部の三学部を設置した。さくら夙川キャンパス(西宮市)、いたみ稲野キャンパス(伊丹市)の二つのキャンパスに、3200人の学生が学ぶ。
 さくら夙川キャンパスは、大阪から約15分、神戸から約10分、静かな住宅街に立地、近くには桜の名所・夙川公園があり花見の時期にはにぎわう。新時代の図書館「メディアライブラリーCELL」、世界的建築家の安藤忠雄が設計した「大手前アートセンター」がある。
 アドミッションズオフィス部長の芦田秀昭(現代社会学部教授)が大学を語る。「建学の精神にのっとり、教育の場をひろく開放し、丁寧で親身な教育を提供しています。教育の特色は、リベラル・アーツに重点を置いていますが、一般にいわれるリベラル・アーツではなく『幅広い教養のうえに形成される専門性(メジャー)』を意味しています。そして、学生本位のさまざまな改革を行っています」
 様ざまな改革の白眉は、「ユニット自由選択制」。07年の改組によりカリキュラムが一新され、これまでの学部・学科の枠を超え、学生一人ひとりがそれぞれ自分だけのカリキュラムをつくることを可能にした。宣伝広報では、「自分学科」とも表現した。
 芦田が説明する。「三学部一四の系統で科目ユニットが分類され、レベル100(トライアル科目)からレベル400まで段階的に設置されています。レベルが高くなるほど、より専門的な教育が行われます。これらのユニットを自由に組み合わせて学ぶことができるとともに、学年・学期ごとに組み合わせを変更することも可能です。認定心理士や建築士の受験資格などテーマに沿った資格取得のための授業もあります」
 受験生や学生の反応はどうだったのか。「高校生は、大学で何をやりたいか、決められない生徒が多い。この制度は、学生の授業選択の自由度が高いため、各自の目標に沿ったカリキュラムを組むことができるので、説明すると『おもしろい』と当初から反応はよかった」(芦田) 
 学長の川本もエールを送る。「大学は勉強の場ですが、これまでとは違って、何を勉強するかは学生自身が決めること。ランクではなく、学生自身の意図と意欲が問題。大学生活の四年間で学べること、面白いことは山のようにある。進学してから、貴重な時間とエネルギーを何に『投資』するのか、考えてほしい」
 「ユニット自由選択制」の導入以前から改革は行ってきた。2000年には大手前大学に改称するとともに、男女共学にするという大きな改革を行った。アドミッションズオフィス入試広報グループ課長の坂本俊平が説明する。
 「大学共学化の流れのなかで、関西地区ではいち早く転換しました。東京で共学化した大学に相談するなど対策は立てましたが、女子大のイメージが強く、男子学生が来てくれるか、心配でした。しかし、ふたを開けると男子が六割も来てくれたので、ほっとしました」。現在も学生の男女比は6対4だそうだ。
 なぜ、うまくいったのか。「大手前という大学名が男性的だったから、とかいろんな意見が出ました。しかし、『男女驚学』というキャッチコピーをつくって宣伝展開したのが話題になりました。この宣伝広報がうまくいった、と広報としては思っているのですが…」
 05年には、メディア・芸術学科を開設、マンガ・アニメーションコースを設けた。「マンガ文化は社会的に認知され、アニメは輸出産業として貢献しているのに、ともに研究する大学は少ない。そこで、『ルパン三世』で知られる漫画家、モンキー・パンチこと加藤一彦氏を教授に招聘して開設しました」
 この9月、「モンキー・パンチ展」を開催。記念シンポジウムは、第一部で浜野保樹東京大学大学院教授が「模倣される日本」の講演。第二部では、浜野教授、加藤一彦教授(モンキーパンチ)、漫画家である倉田よしみ教授、浜津 守教授の四氏によるパネルディスカッションが行われた。
 坂本は「新聞やテレビのニュースで取り上げられました。加藤教授が『ルパン』制作にまつわるエピソードを話したこともあって『アニメやマンガの裏話が聞けて楽しかった』など好評でした。モンキー・パンチのネームバリューは大きいですね」という。
 文芸、製菓系を新設
 2010年にも、改革が目白押しだ。総合文化学部に文芸系と製菓学系が設置される。芦田が語る。「文芸系は、現代文学、児童文学、ファンタジー、ケータイ小説からコピーライティング、川柳と俳句…。言葉で描かれたさまざまな世界を創作、鑑賞、理論にわたって学びます。
 製菓学系は、四年制大学ではじめての本格的な洋菓子づくりのカリキュラムをスタートします。有名パティシエから直接学ぶ機会を設ける予定です」
 製菓学系の設置は、学校法人大手前学園が、大手前栄養学院、大手前製菓学院という専門学校を擁するので、そのノウハウが生かされる。また、神戸・阪神間には有名な菓子メーカーやケーキショップが沢山あるのも背中を押したようだ。
 また、10年から、主に社会人を対象に通信教育課程を開設する。社会人に学び続けてもらうための仕組みとして、「eラーニング」を積極的に活用する予定。eラーニング推進センターを中心に専門スタッフによるサポート体制を組む。
 最後に広報体制について、芦田に聞いた。「ユニット制の宣伝広報では、差別化、ユニークさを訴求、その年から受験生も伸びています。今後とも、ユニット制といえば大手前大、といわれるような、きらりと光る個性を発信していきたい」
 坂本は「最近、うちのユニット制と同じようなカリキュラムを前面に打ち出す大学が増えています。今後とも、改革、そして差別化は、広報にとっても大事になります」と付け加えた。大手前大の差別化という改革は間断なく続く。広報の併走もまだ終わらない。

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