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平成21年11月 第2380号(11月11日)

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  私大の教育・研究充実の研究会
  日本私立大学団体連合会の質保証アンケート結果を活かす
  「学士課程教育の質の向上」テーマに

 (財)私学研修福祉会(廣川利男理事長、東京電機大学学事顧問)主催の第32回私立大学の教育・研究充実に関する研究会(大学の部)が、去る11月5日・6日の両日、東京・市ヶ谷のアルカディア市ヶ谷を会場に開催された。同研究会には私立大学129校から、学長、学部長、学校法人理事長等約170名が参加し、学士課程教育の質の向上についての基調講演、日本私立大学団体連合会の「学士課程教育の『質の向上』に関わるアンケート」の結果を分析した報告・提案、私立大学を取り巻く諸問題についてのシンポジウム、大学経営や情報公開についてのグループ・ディスカッション等が二日間にわたって行われた。

グローバル化の中での学位の国際的通用性を

 第一日目は、開会にあたり廣川理事長が「時代が求める人材育成、社会の期待に応えるために、私立大学はその個性とともに、教育の質保証に取組んでいかなくてはならない」と挨拶を述べた。
 続いて、同研究会運営委員長の佐伯弘治流通経済大学学園長が挨拶に立ち、「この機会に、これから私学がどうあるべきか、高等教育がどうあるべきかについて意見を持ち寄ってほしい。ぜひ、声をあげてほしい。それらを意気込みとして社会や国に対して訴えていきたい」と述べた。
 まず、私大団体連会長の白井克彦早稲田大学総長が「学士課程教育の質の向上について」と題した講演を行った。各大学で質が問われる背景要因を解説し、社会における大学の使命を果たしていくための公財政支出の必要性を随所で述べた。ただ、大学としても工夫をして、予算削減に対抗しうる前向きな取組と姿勢を見せるべきと述べた。
 未来の国家・社会を支える“人財”を育成するためにも、私立大学は社会をリードする主体へと、さらなる変革を遂げなくてはならないとまとめた。
 休憩の後、報告及び提案に移り、松本亮三東海大学附属図書館長・文学部教授が「アンケート調査結果にみる私立大学教育の現状と課題」と題して、日本私立大学団体連合会「質保証の共同作業部会」が構成三団体に昨年行った「学士課程教育の『質の向上』に関するアンケート」の集計結果について概要を述べた上で、少子化に対応した高大接続システムの再構築の必要性や、ラーニング・アウトカムの測定等に向けて各大学は努力しているが、十分ではない現状など、今後の課題についても詳らかにした。
 次に、「質保証の実質化に向けて」と題して、工藤教和慶應義塾大学教授が、質保証・向上を実質化する方策と、提案を挙げた。遠隔授業と大学間学生移動を組み合わせた教育の実現が、評価だけでは困難な質保証・向上の実質化を促進するものと期待されると述べた。大学共有施設としての大学宿舎の整備、e-ラーニングの充実など高等教育の総資源を活用すべきと述べた。
 両講師からの報告・提案が終わると、古矢鉄矢北里大学学長補佐・学長室長がコーディネーターをつとめて、再び登壇した両講師と会場も交えた質疑応答、意見交換が行われた。
 第一日目の日程の最後には、懇親会が開催された。

学生“渡り鳥”のススメ
 日本版エラスムス構想

 第二日目は、「私立大学を取り巻く諸問題について」と題し、講師に鈴木典比古国際基督教大学学長、佐藤東洋士桜美林大学理事長・学長、黒田壽二金沢工業大学学園長・総長、コーディネーターに金子朝子昭和女子大学副学長を迎え、シンポジウムが行われた。
 まず、鈴木氏が「私立大学の学士課程教育―その責任と可能性―」と題して講演した。質保証をめぐる国内外の状況から、グローバルな人材・教育財の交流ネットワーク構築の必要性を述べて、日本の私立大学は今こそイニシアチブをとる時と、多様で個性豊かな人材育成を図る私立大学ならではの「雑木林型教育」をすべきと提唱した。また、国内における学生の大学間移動を薦める構想「学生渡り鳥制度」への理解を求めた。
 続いて、佐藤氏が「国際交流と私立大学教育の質の向上―留学生30万人計画を活かして」と題して、留学生30万人計画は大学教育の質の向上にどう活かされるのかについて講演した。留学生を受け入れる国内の大学の体制が、多様なかたちを持ち、学生の多様性に対して対応できることを目指すことにより、教育の質の向上も図られる等と述べた。学生寮・宿舎等の施設整備を行うことで、留学生受け入れも「学生渡り鳥制度」もフォローできるようになるのだと、公財政投資の対象としての案を示した。また、学生一人当たりの公財政支出教育費(高等教育)のデータを用いて、「教育立国」実現のためにも私立大学に公正な公財政支出が必要と述べた。
 最後に、「私立大学を取り巻く諸問題について」と題し、黒田氏が講演した。「大学とは何か」が社会から問われており、大学教育の構造転換を推進する時期であると、その教育の質は確実に保証されなければならないと述べた。中長期的な大学教育の在り方に関する第一次報告、第二次報告のポイント、中教審の審議動向等について俯瞰的に解説した。各大学の質の向上に向けては、機能別分化による特色化を図り、各大学の求める、育成する学生像を明確にすること等を述べた。
 その後のディスカッションでは会場からの意見も交え、さきの講演内容を踏まえて様々な意見が交わされた。
 昼食休憩の後に、「大学経営と量的規模」「人口減少期の大学経営」「教育研究に関する情報公開の推進」などについて三つのグループに分かれて、ディスカッションが行われ、二日間にわたった日程はすべて終了した。

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