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平成21年11月 第2379号(11月4日)

新刊紹介
  モノやコトに一途
  「むかし学校は豊かだった」
  ―教育の境界研究会編―

 「新刊紹介に取り上げて欲しい」と、結構な数の本が編集部に届く。届いた本をさっと読む。“取り上げたい度”に強弱が出る。この本には、強い磁場のようなものがあった。
 〈制服や校舎、運動会や卒業式など、学校に存在する様々なモノやコトを取り上げ、考察した〉かなりユニークな視座だ。
 〈教育問題が山積みするなか、モノやコトなどと悠長なこと言っている場合ではないのではないか〉と“自省”しつつ、モノやコトへのこだわりは一途。
 教育改革の動きに、こう挑発する。〈人は、学校において教育的な意味づけをすりぬけ「住まっている」〉と規定。戯れを許容しない教育改革に、正面から対峙せず、「豊かさ」を武器に立ち向かう姿勢がいい。
 「はじめに」に思想が詰まっている。一章で、昔の学校のありよう、二章で学校現場と、そのゆらぎ、三章で、教育改革の現状に批判的検討を加える。
 本を読む楽しみのひとつに、「初めて知った」、「そういうことか」という発見がある。そのひとつ。
 〈駅のホームや公園からゴロリと横になれるベンチが消えた。今風のベンチは一人用の席が三つぐらい連なり、行儀よく前を向いて座るしかない〉
 この椅子の変化から〈排除型社会が、「住まう」経験を侵食し始めている。快適性は、リスク管理という錦の御旗で風前の灯火になっている〉と時代を撃つ。
 学習指導要領改訂に触れ〈改革は一見もっともらしい理屈を身にまとってやってくる。しかし、その真実が、理屈が語るのとは別のところに存在していることが多い〉
 このように、本のタイトルは穏やかだが、主張は鋭利だ。このアンバランスさが主張を屹立させている。

 「むかし学校は豊かだった」
 教育の境界研究会編
 阿吽社
 075−414−8951
 定価2100円+税

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