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平成21年10月 第2378号(10月28日)

キャリアデザインの時代 2
  就職部・キャリアセンター職員に求められる力と育成

立教大学キャリアセンター主幹
日本キャリアデザイン学会 理事 加藤敏子

 前置き
 かなり難しい表題を頂戴し、頭を抱えてしまった。なぜかというと、求められる力とは各大学の事情によってまさに力の入れ具合(方針)が異なるので、一般論では考えにくい。
 ここでは私が10年間従事してきた経験を振り返りながら、「職員に求められる力と育成」を、この3月まで現場の事務部長職を預かっていた者の一事例であるということに限定して、ご容赦いただきたい。
 学生状況が職員に力を要求していった
 10年前はキャリアというコトバがやっといわれ始めた頃と記憶する。今ならキャリアセンター職員に必要な力とは、と、10年間の蓄積から振り返って言えるのだが、その当時は現場で試行錯誤の連続。急激な社会・労働環境変化と学生の変化が従来の支援では通用しないと突きつけてきていた。とりわけ、学生の変化(嫌いな言葉だが未成熟)が支援手法の開発(多様な手法)を求めてきたというのが現実である。
 企業サイドは優秀な学生を選別するツールを色々開発してきている。その対策的な支援は真の学生支援ではない。我々はあくまでも学生の成長発達の促進をめざしている。なぜなら就職活動支援は(正課外)教育の一環であり、青年期後期の彼等にとって大切な社会への移行期で、かつ卒業後の人生に影響を与えるキャリア支援だからである。どこに入るかではなくどう生きていくかの支援である。SPS(Student Personnel Service:学生を入学から卒業までその大学の構成員にしていくという理念)の最後の支援にあたる。
 だからこそその内容は、その大学の建学の精神にのっとった職員自身の力が必要となる。大学の方針によって職員に求められる力が異なってよいのであり、アウトソースしにくい理由はここにある。よしんばアウトソースを余儀なくされた場合は、プログラム商品をその大学にカスタマイズできることを条件とすべきであり、依頼者は提供された内容を評価できる力が必要である。SD(Staff development)の議論を待つまでもなく職員が専門職化していく所以でもある。
 「青年心理の理解」はいわばOS(必修)
 「学生の中に問いがあり、学生の中に解はある」
 就職関係の他大学職員とよく言っていたフレーズであり、これほど学生支援とは何かを根源的に言い当てているものはない。我々は何のために誰に何をしようとしているのだ!と常に問うていく力が重要となる。
 そのための土台は「青年心理」を学ぶことである。「大学の教職員にとって「青年心理」は必修科目である」と常々学内外に発信していたカウンセラーを本学は擁していた。人間の成長発達課題において青年期後期にあたる大学生期はどういう発達課題があり、目の前の学生はどういう発達途上なのか、何の課題を先送りしてきてしまったのかなどを見たてながら相談やプログラムを企画すれば、よりよい支援ができる。そして大事な事は自分が手に負えないと思ったら相談所はじめ他部署や同僚の他の職員へリファーする勇気も力である。ややもすると助けてあげようと自分が抱え込んで、かえって支援の阻害をしている場合もありうる。相談は真摯な態度と真に役に立ったかという自問自答が非常に大切だ。
 以上、求められる力の理念と前提を述べた。次にこの10年間での主な力と育成を、数例を挙げて経年で振り返ってみる。
 キャリアセンター第一期(2000〜02年)
 T「教職協働」の力と育成

 キャリア教育というコトバがなかった2000年から「仕事と人生」(全学共通カリキュラム)という授業を教員とともに立ち上げた。その際、教員に授業内容のレベルをめぐって学問とは何かを問われ激論となった貴重な体験を踏まえ、職員のレベルアップを計画し、部内勉強会を設定。予算を取り外部講師を招き月一回の勉強会を実施してきた。また授業の一コマは職員が教員の前で授業を行うことも研修と位置づけた。今後は教員との対等な関係がより必須となると予感した。
 02年から学部担当制を敷き、学部・学科データを持参し学部訪問を開始した。学部長、学科長、キャリセン委員と約一時間懇談。学部担当者と学部教員との連携が濃くなり、学部授業にも声がかかるようになる。またゼミ訪問の依頼がくるようになり、より教員との距離が縮まった。教職協働は今後も促進される。
 II『キャリアセンターの人材育成』
 人材目標:専門職+ジェネラルセンス

 02年キャリアセンター化したことを契機に、『キャリアセンターの人材育成』を作成し、必須の能力をaカウンセリング能力、b情報収集能力、c交渉能力、dネットワーク力と設定し、その理由を挙げて次の研修予算を獲得する。
 @キャリアカウンセラー養成講座への派遣(abcd)
 Aグループ・ワーカーの養成(ad)
 B各種外部研修会への派遣(知識、情報向上、授業講師開拓)(bc)
 C大学間研修への派遣(勉強会、情報交換、ネットワーク等)(abd)
 D自己研鑽
 @〜CはDの自己研鑽を主体的に行う意欲を引き出すきっかけにすぎない。七年後の現在は新たな能力が加わっていることはいうまでもない。
 キャリアセンター第二期(2003〜04年)
 「学生参画」と職員の育成

 仮説「与え続ければ必ずや自ら立ち上がる」の実証の時期がきた。受身に拡大するプログラムを続け、そろそろ学生が主体的に動き出すという実施を試みる。学生の構造化と称して、密に相談に来た学生を課員が挑発し、内定者の会「キャリア塾」の組織作りをサポートする。口を出さず見守りながら学生をサポートすることは非常に鍛えられる力である。回答を求める学生にかなり課員は苦しみ、成長した。イベント化させない、あくまでも我々の行事のなかの一環として位置づける。お金で学生を動かさない、報酬は「カウンセリングマインド研修」。またこの担当者がこの体験をキャリアデザイン学会誌にチャレンジして掲載し、「書く」力の研修の機会も得た。またこの年までに達成目標とした、正課・学生・卒業生・他部署との「連携(ネットワーク)型支援」も確立できた。今後は連携をコーディネートしていく力が必要となるであろう。職員は学生によって育成されていくのである。
 キャリアセンター第三期(2005〜08年)
 個人相談強化

 2004年度までに一応キャリアセンターは完成に近い組織になった。キャリアセンターアドバンストと位置づけて、コア業務の相談業務の力をつけることに集中した。時代と学生の変化とともに相談業務が高度化せざるを得ない状況になっている。今後大学院レベルの体系化された知識や臨床トレーニングを学んだ者も必要となるであろう。
 キャリアセンター・ネクストステージ(2009年〜)
 このようにこの10年間、人材要件の高度化と学生実態のギャップに対し支援手法を開発しながら、職員のべクトルは当然教学へと向かった。キャリア教育はキャリアの視点での教育改革運動であるので、FDを含む教育改革推進が我々の確信となった。今年度11月から全学的なキャリア支援部署として、キャリア支援(課)と就職支援(課)という二つの機能を擁して、いわば新キャリアセンターとしてリニューアルする。全学的な「キャリア教育推進会議」もスタートし、先行の「教育改革推進会議」とリンクしていく。
 10年目にして希求した教育改革が緒についたところであり、名実共にネクストステージの始まりだ。新たなSDを学生が要求してくるであろう。

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