平成21年10月 第2378号(10月28日)
■私大協会
私学振興の重要課題など協議
平成20年度収支決算を承認
第131回総会(秋季)を金沢で開催
私学振興のターニングポイント、高等教育への公的助成拡充を!
日本私立大学協会(大沼 淳会長)は、去る23日、金沢市の「ホテル日航金沢」を会場に、同協会中部支部(支部長=小出忠孝愛知学院大学学院長・学長)の担当の下、第131回総会(平成21年度秋季)を開催した。加盟384大学から252大学340名の理事長・学長等が一堂に会し、平成20年度の収支決算を承認するとともに、平成22年度私立大学関係政府予算概算要求及び私学関係税制対策の経過報告と今後の実現対策、高等教育激動期における私立大学の振興・発展方策についての協議が行われた。また、総会終了後には来賓を招いての懇親晩餐会も盛大に催された。なお、翌24日には、加賀百万石ゆかりの地を訪ねる見学会も実施された。
総 会
開会に当たり大沼会長は「民主党がマニフェスト等に掲げた重点施策には、高校の原則無償化のほか、高等教育関連の施策もある。経済的負担軽減のための大学奨学金の充実、医師不足解消のための医学部定員増、高等教育の基盤整備と質の向上、科学技術の振興などである。しかしながら、これらの施策には、私学振興の面での具体的な姿・形は見えてこない。また、21年度補正予算の見直しや22年度の概算要求も私学の意見等が反映されないまま立案されている。日本の将来を託す学生の77%の教育を担う私学として今後どのように対応していくのか、大きなターニングポイントとして捉え、共通認識の下で“やるべきこと”をしっかりとやっていきたい」と挨拶するとともに、総会の諸準備を担当した中部支部に対し感謝の意を述べた。
また、小出支部長は「中部支部での総会は名古屋が定番でしたが、この度は加賀百万石の地・金沢での開催と致しました。当地の大学関係者の皆さんには大変な協力をいただき、無事開催の運びとなりました。現下の大いなる変節の時に、確かな一歩を進められるよう願っています」と歓迎の言葉を述べた。
引き続いて、平成21年度上半期の新加入会員の攝V潟科学技術学園(新潟薬科大学)、(学)光星学院(八戸大学)、(学)福島学院(福島学院大学)が紹介され、暖かい拍手で歓迎された。
収支決算を承認
議事に移り、はじめに承認事項として、平成20年度同協会収支決算について企画財務委員会担当理事の廣川利男副会長(東京電機大学学事顧問)が、予め加盟校に送付済みの収支計算書に基づいて経常会計、特別会計のポイントを説明。併せて、椙山正弘監事(椙山女学園大学理事長)が監事を代表して監査報告をし、満場一致で承認された。
予算、税制の経過と対応
協議事項に入り、まず、平成22年度私立大学関係政府予算概算要求及び私学関係税制対策に関する経過報告と実現対策、並びに今後の私学助成対策等について、小出秀文事務局長が提案説明に立った。
前政権下の予算概算要求に向けて、私学は「私学助成1%削減の撤廃」「地方私学に光を充てる」「地域連携施策の強化」などを訴えてきた。経常費については、一般補助は前年度予算とは同額要望であったが、特別補助で185億円増の要望(学生の経済的負担軽減や地方活性化支援など)を求めていた。
しかし、8月30日の総選挙の結果、政権交代し当初の概算要求は反故となり、文科大臣をはじめ副大臣、政務官による政治主導の政務三役会議によって新たな概算要求が立案されたのである。
その結果、新たな概算要求は民主党のマニフェストに沿った「公立高校の無償化」「大学奨学金の大幅拡充」などが盛り込まれたものの、私立大学関係項目の予算は不透明となっている。「大学奨学金の拡充」にしても、“事項要求”という名のもとに、具体的な数字の見えない形である。
これらの経過を報告した上で小出事務局長は「これから財務省等の厳しい査定も行われていく。今後の要望に当っては理論的に練り上げた上で、様々な局面で対策活動が必要になる」との意向を示した。
また、去る10月13日の全私学連合の川端達夫文科大臣等への表敬訪問の様子も紹介した。その上で今後の対応方策は全私学連合の会長会議等で諮ることになるが、概算要求の満額実現、事項要求での実を上げていくことなどが焦点になるとの考えを示した。
併せて、税制改正に関する要望では、教育費(学費)の所得控除制度の創設、学校法人に対する寄附促進のための措置の拡大(所得控除限度額の上限を所得の40%から50%)などについて説明した。
これらの経過説明及び対応の考え方は、協議の上、承認された。
私大の振興・発展方策
小休憩の後、高等教育の振興・発展方策については、@中長期的な大学教育の在り方、A今後の学校におけるキャリア教育・職業教育の在り方、B大学入学者選抜問題などが協議された。
@では、中教審大学分科会の第二次報告において、諮問の三つの柱の一つである「多様なニーズに対応する大学制度及びその教育の在り方」に関連する「質保証システム部会」の審議のポイントを同部会の部会長を務める黒田壽二副会長が説明した。
黒田副会長は、設置基準、設置認可審査、認証評価の関係など公的な質保証の在り方のほか、教育・研究に係わる情報公開が求められていること(大学規模・大学経営部会での大学運営に関わる情報公開もある)などを中心に解説した。続いてAの「キャリア教育・職業教育特別部会」の審議経過に対する私立大学団体連合会のヒアリングにおいて、同部会委員でもある黒田副会長が、「新しい学校種としての『職業教育に特化した高等教育機関の枠組みのイメージ』の必要性は疑問である」といった意見発表のあったことを紹介した。加えて、第四期科学技術基本計画のヒアリングで黒田副会長が発表した意見の内容も解説した。
次に、Bについては、大学入学者選抜方法の改善に関する協議の協力者である小出忠孝副会長から、来年度からAO入試は八月以降に行うこと、推薦入試等では何らかの方法で学力チェックを行うことなどを述べたほか、入試での新型インフルエンザ対応方針を説明し、私立大学団体連合会、国立大学協会、公立大学協会の共同コメント(大学受験相当年齢の者や入試関連教職員への優先的ワクチン接種)も説明された。そのほか、高大接続テストの検討状況なども説明された。
最後に、小出事務局長から、「一部マスコミにおいて『教員免許更新制打ち切り、教員養成六年制へ』といった報道があったが、そのように決まったわけではなく、今後検討していくことになっている」との状況説明があった。
これら多岐にわたる説明等は了承され、対応等も含めて承認された。
引き続き、同協会役員の補任について、関西支部の理事欠員の補任として、福井 有氏(大手前大学理事長)、山本良一氏(帝恷R大学学長)の二名、九州支部の理事欠員の補任として佐藤光昭氏(九州産業大学理事長)、瀬地山 敏氏(鹿児島国際大学学長)の二名がそれぞれ推薦され、満場一致で承認された。
協議事項の最後には、第132回総会(春季)の開催が平成22年3月25日に東京・市ヶ谷のアルカディア市ヶ谷で開催すること、また、第133回総会(秋季)の開催については、関東地区連絡協議会が担当することから、同協議会の21年度議長の塚本桓世氏(東京理科大学理事長)から平成22年10月22日〜23日に千葉市のホテルニューオータニ幕張で開催することが提案・承認された。
報告事項
報告事項では、まず平成21年度の同協会上半期の各種研修会・協議会等の事業を小出事務局長が報告し、同協会附置私学高等教育研究所の事業については瀧澤博三主幹が「事務局職員の力量形成に関する調査」及び「私立大学の財務運営に関する実態調査」などを報告した。
次に、大学評価事業への対応について、(財)日本高等教育評価機構の高倉 翔副理事長が、平成21年度の実地調査や22年度の評価活動の予定、今後の課題等について報告した。
そのほか、「グループ共済制度」「私学研修福祉会の平成22年度海外研修員募集案内」「全国高等学校長協会家庭部会の要望書」などについて、小出事務局長から説明・報告が行われて議事は終了した。
懇親晩餐会・見学会
総会終了後、会場を移しての懇親晩餐会が開かれ、はじめにアトラクションとして、笛と鼓による「一調一管」が演奏された。
引き続き、大沼会長の開会の挨拶、黒田副会長(金沢工業大学学園長)の歓迎の挨拶があり、来賓祝辞では、地元の森 喜朗衆議院議員、馳 浩衆議院議員、谷本正憲石川県知事、山出保金沢市長(代読・須野原雄副市長)らが登壇し、総会の労をねぎらうとともに、歓迎の挨拶を述べた。
次に、小出副会長の乾杯の発声で杯を高く掲げ、歓談に移った。宴もたけなわとなり、伝統芸能の「炎太鼓」の勇壮なアトラクションがあり、締めの挨拶を二十一年度関東地区連絡協議会の塚本議長が行ってお開きとなった。
翌24日の加賀百万石ゆかりの地を訪ねる懇親見学会では、加賀藩二代目藩主の前田利長公の菩提を弔うために三代目藩主利常公によって建立された曹洞宗高岡山瑞龍寺を見学。七堂伽藍を完備し、周囲に壕をめぐらしたという重厚な城郭を思わせる寺城である。
次に訪れたのは南砺市にある五箇山の合掌造りの村上家。この地は、塩硝といわれる火薬原料の生産地として加賀藩にとっての軍事機密となっていた。村上家は約400年前に建築され急勾配の切妻造り・茅葺き屋根の民家で、屋根が両手を合わせた合掌の形になっている。また、当地が発祥の地と言われる民謡「こきりこ節」(「こきりこ」は、田楽や田踊りに使用した楽器)の演舞も行われた。五箇山見学の後、散会となり、小松空港、金沢駅、名古屋駅へとそれぞれ帰途についた。