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平成21年10月 第2377号(10月21日)

高めよ 深めよ 大学広報力〈48〉 こうやって変革した45
  文化財が生きた教材
  受験生は全国から 京都にライバル心
  奈良大学

 「国のまほろば奈良は、日本の奈良であり、世界の奈良である、この地に大学をたて、世界的視野を持つ人間を育成する」という創立者の願いに基づいて開学。奈良には、三ヶ所もの世界遺産があり、東大寺・平城宮跡・唐招提寺・法隆寺・飛鳥・吉野など、千年以上もの歴史文化が蓄積し万葉故地が点在する。こうした環境のなかにあるのが奈良大学(石原 潤学長、奈良市山陵町)。本物の文化財を生きた教材として、教学に活用して「歩く」「見る」「聞く」「触れる」「感じる」といった体験型授業を行っている。「奈良で学ぶ贅沢」という大学のキャッチフレーズを大学運営に、どう生かしているのか、古都の大学の広報はどのように行っているのか、などを尋ねた。
 (文中敬称略)

キャッチフレーズは「奈良で学ぶ贅沢」

 丘陵地にあるので静寂な環境で、晴れた日には東大寺大仏殿や秋篠寺、はるか三輪山・生駒山までも見渡すことができる。
 奈良大学は今年、創立40周年を迎えた。1925(大正14)年、薮内敬治郎によって創設された南都正強中学が前身。1969年、奈良市宝来町に開学。当初は文学部のみの単科大学(国文学科、史学科、地理学科)だった。
 79年、文学部に文化財学科を設置。88年、奈良市山陵町へキャンパスを全面移転。同年、社会学部を新設し社会学科、産業社会学科を設置(現在は現代社会学科および心理学科に改変)。93年、大学院を開設。05年、通信教育部を新設、文化財歴史学科を設置。現在、文学部1908人、社会学部729人の学生が学ぶ。
 広報室室長の越智和彦が大学を語る。「本学は、規模の小さい大学ですが、教職員と学生の触れ合いが強く、一人ひとりを大切にする教育を心掛けています。一番の特徴は、歴史・文化遺産に恵まれ、奈良でしかできない素晴らしい条件・環境を教学に取り入れていることです」
 一人ひとりを大切に
 越智が言うように、一学年約650人、全学生約2700人と、学生数は多くない。一人ひとりを大切にする教育が可能だ。何より、世界に誇る文化遺産が街のあちこちに点在、古都の大学を一層、際立たせる。
 「街自体が教室であり、図書館であり、研究室になっています。教室で学ぶだけでなく、街を歩いて、本物を見、本物に触れて学ぶ、フィールド重視の教育を実践しています」(越智)
 大学として歴史考古学ファンらに根強い人気があるという。県内外で歴史・考古学関係の公開講座を多く開催してきた。歴史・考古学関連には、多くの有名教授を擁する。近年は、全学挙げて学際的な「世界遺産学」の創生を提唱して注目された。
 入学課課長の松井 朗が語る。「古代史・万葉・考古学関連の新聞記事の学者のコメント掲載数では全国トップクラスです。それに、あまり知られていませんが、全国の遺跡調査専門家約6000人の内、700人以上は奈良大出身者です」
 マスコミによく登場する教授陣。文化財学科では、東野治之は、日本古代の対外交流史、奈良の寺院史が主な研究テーマ、千田嘉博は、日本と世界の城郭と都市遺跡を研究。千田は五月の「モンゴル草原の考古学」の公開講座に尽力した。国文学科の上野誠はこのほど「魂の古代学」(新潮選書)を上梓した。
 07年から全国高校生歴史フォーラムを開催している。「暗記じゃない歴史がここにある、をキャッチコピーに開催。本当の歴史・文化財・地理を研究する楽しさを高校生のみなさんに実感してもらうのがねらいです」(越智)
 今年は創立40周年を記念して開催。応募のあった歴史や地理の研究レポートを厳正に審査、優れたレポートをまとめた高校の代表者8組24名を奈良大学に招待。教授らと一緒に奈良の文化財を巡る現地調査も行う。
 在学生の6割が下宿
 受験生が全国から集まるのも特長。進学相談会は5月から10月にかけて北海道から沖縄まで全国各地で行っている。歴史・文化財・地理といった奈良大学ならではの学部学科があるのも全国から受験生が集まる理由かもしれない。
 「在学生の56%、約6割が下宿です。応募が全国から来るというのは有難いこと。ここの大学でないと学べない、というのが強みですが、景気が後退すると地方からの受験生が減ります。これが弱みと言えば弱みですかね…」(松井)
 地域連携も、この大学らしい。聖徳太子ゆかりの奈良県・斑鳩町とは平成19年2月、包括的な連携を結んだ。「教育、文化、産業、まちづくり等の分野において相互に協力し、地域社会の発展と人材育成に寄与する」が目的だ。
 飛鳥地方における歴史的風土および文化財の保存等を図ることを目的に設立された飛鳥保存財団とは、平成19年2月に協定書に調印した。「大学教育の活性化と飛鳥地域の保存と活用に向けて連携協力する」のが目的。
 奈良県内の大学との単位互換制度も活発だ。奈良教育大学、奈良県立大学、帝塚山大学、天理大学、奈良産業大学、奈良女子大学などと単位互換制度を実施。これら大学の開講科目の指定科目を履修することが可能だ。
 保守的な大学のイメージがあるが、これまでにも様々な改革を行ってきた。79年の文学部に文化財学科を設置したのは、日本初だった。88年には、社会学部(社会学科、産業社会学科)を新設。文学部カラー一色からの脱皮を図った。
 通信教育部も人気
 05年の通信教育部(文化財歴史学科)の設置は反響を呼んだ。越智が説明する。「平城宮跡の現地での授業もあって、歴史や文化財に興味を持たれる方が多く入学しています。弁護士やお医者さんもいますし、定年後に、もう一度、勉強したいという方も多いようです」
 通信教育部の一年次入学生、三年次編入学生(科目等履修生は除く)は、卒業に必要な単位とは別に博物館学芸員資格科目を修得すれば、卒業と同時に博物館学芸員資格が取得可能だ。
 来年四月からは、社会学部に全国初の「社会調査学科」を開設。応募パンフにはこうある。「複雑化する現代社会を生き抜くためには、情報をいかに『収集』し『分析』し『活用』するか、という技術が必要。どうすればそれらの技術を総合的に活用できる人材を育てることができるか。奈良大学の答えは『社会調査技術と情報技術の融合』」
 奈良大学の広報体制は、「広報室が二人、入学課が10人と大学同様、小さな組織なので、連携しながらやっています」(松井)。奈良県北部に位置し、京都府との境界も近い。その京都とのライバル心は強いものがある。松井の話が面白い。
 「京都は応仁の乱で焼けたが、奈良は焼けていない。京都は明治以降、ビルが建てられ都市化した。奈良は法隆寺、東大寺大仏など歴史的遺産がより多く残っている」、「古事記や日本書紀は奈良時代に編纂された。何より、学生にとって奈良は京都より、下宿代も安いし住みやすい」
 少しヒートアップしたが、最後は落ち着いて、こう話した。「オープンキャンパスに来る受験生も初日は奈良、二日目は京都とハシゴするようです。うーん、京都の大学ですか…、いい意味のライバル関係であり続けたい」。古都・奈良の大学としての存在感を誇る、このあたりが奈良大の強みではないか。

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