平成21年10月 第2377号(10月21日)
■伊能忠敬測量開始210年
成功させよう!
復元伊能大図の全国巡回展 下
大きさ、彩色を完全復元
来年4月スタート 共催に前向きの大学も
伊能忠敬が作製した日本初の実測地図「大日本沿海輿地全図」を完全復元した「伊能大図」の全国巡回展。伊能が日本列島の測量を開始して210年の来年に先立ち、「伊能大図」を既に公開していたり、今年、公開の予定されている会場もある。今年の公開の模様と、来年の巡回展で見ることのできる「伊能大図」の特長を紹介する。合わせて、地図の搬送など巡回展示にかかる経費も示した。既に、私大協会加盟大学のなかには、「オープンキャンパスに利用できないか」、「地域貢献に活用できそうだ」などと体育館の提供に前向きな大学も出てきている。来年四月から四七都道府県、約50会場で始まる「伊能大図」の全国巡回展への関心は日を追うごとに高まりをみせている。
(文中敬称略)
高まる巡回展への関心
各地に残る伊能大図214枚を再構成し復元された伊能忠敬の地図が京都市北区・京都府立体育館で公開された。09年3月27日のこと。地元紙は「幅60メートル 伊能忠敬の『巨大日本地図』を復元」の見出しで、こう報じた。
〈忠敬が全国をめぐって測量を始めてから来年で210年を迎えるのを記念し、民間の「伊能忠敬研究会」(東京)などが一年がかりで製作。大図の正本は明治6年に焼失したため、日米の博物館や図書館で保管されていた複本などからデータを収集し、縦2メートル、横1メートルのパネル計255枚で復元した。
大図には、忠敬が実際に歩いた沿岸や街道に朱色の線が引かれているほか、集落、寺社などが詳細に書き込まれており、地図誕生に至る歴史的な足跡を見渡すことができる。同研究会は「忠敬の偉業を知り、自分の志に生かしてもらえれば」と話している〉
翌4月11、12日には、東京都江東区の深川スポーツセンターで一般公開された。北海道から屋久島まで東西47メートル、南北45メートルの大きさ。主要な山や河川、村、寺院などの名前が記されている地図が展示された。
年内に公開が予定されているのは、11月5日から8日まで四日間、埼玉県さいたま市の与野体育館で、地元の埼玉新聞社の創刊65周年記念事業として開催される。伊能忠敬研究会や日本ウオーキング協会が全面的にバックアップする。
来年、全国50ヶ所程度で公開される伊能図は、総称して「伊能図」と言われるもので、大きく分類すると「大図」(1/36000:214枚)、「中図」(1/21600:8枚)、「小図」(1/432000:3枚)とその他の図となる。大図一枚の大きさはほぼ畳一枚になる。
日本ウオーキング協会理事の堀野正勝が、巡回展で公開する伊能大図の特長を語る。「国内外に伝存した優良な伊能大図を集成して、規模、彩色を完成時に最も近い形で復元しました。朱色の測線の総延長は4万メートル、忠敬は自分の足で簡単な測量器具を頼りに17年かけて完成させました。見れば、伊能大図の大きさに誰もが驚嘆するでしょう」
出典の伊能大図の所蔵者も国際的で、米国議会図書館彩色原図 37枚、▽米国議会図書館彩色復元図 108枚、▽国立国会図書館 43枚、▽国立歴史民族博物館 5枚、▽海上保安庁 13枚、▽山口県文書館 6枚、▽松浦史料博物館 2枚の計214枚。
今回、初公開されるのは二つ。米国議会図書館彩色復元図(108枚、無彩色)を現存の伊能大図で最も華麗な国立国会図書館の大図(100号富士山)を基準に彩色を復元したもの。国立国会図書館(43枚)と国立歴史民族博物館(5枚)の全容が原寸大で身近に公開されるのは初めて。
フロアに敷きつめるように展示される大図は、塩化ビニールパネルで、地図の上を歩きながら閲覧することが出来る。傷つけないよう、靴を脱いで、靴下になって歩く。靴はビニール袋に入れて持ち歩くことになる。
各会場とも四日間(木曜〜日曜日)の開催では、伊能図のほか、伊能忠敬の事績を紹介するパネルも40枚用意され、見ることが出来る。こうした展示用の地図、パネル、その他一式はトラック(4トン)で全国の会場を回る。
このように、巡回展には経費がかかるので、実行委員会では、体育館を提供の大学に対して、資金面での協力も呼びかけている。堀野が巡回展の経費見積もり(概算)を説明してくれた。
地図の関係では、地図使用料125万円、地図輸送代金40万円、講師、指導員、管理要員6人の派遣費用83万円の合計248万円。これに、ポスター、チラシ、開催協賛券費用(30万円)、会場設営などのボランティア30〜40人の食事・交通費(20万円)の50万円で、合計298万円と見積られる。
見込まれる収入はどうか。堀野によると、入場料収入(入場者500人×開催協賛券500円)が250万円。開催地の地元新聞社など企業や団体などから50万円程度のスポンサードがあれば収支はトントンになるという。
堀野は「大学が単独開催となっても、入場者は四日間で4000人から5000人は見込まれるので持ち出しにはならないと思います。ボランティアの食事・交通費など直接的負担は50万円程度かかりますが、これも地元企業、団体などの協賛があればカバーできます。何よりも、数千人の受験生や地元住民らが大学を訪れ、その模様がマスコミで報じられる効果はお金に換算できないと思います」と話す。
大学にとって、伊能忠敬という不屈の偉人のイベントを開催したことは大学のブランド力アップにつながり、地域貢献にもなる。オープンキャンパスに利用すれば受験生や親たちが多数、詰め掛けるのは必至。さらに、学生のボランティア参加が実現すれば、有意義な社会体験になるうえ、学生時代の素晴らしい思い出になるはず。このように大学、学生の双方に役立つ巡回展、多くの加盟大学が参加するのを期待して止まない。