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平成21年10月 第2376号(10月14日)

高めよ 深めよ 大学広報力〈47〉 こうやって変革した44
  誇る教育の質の高さ
  一年生は全寮制 知恵と創意で大学改革
  豊田工業大学

 世界のトヨタが社会貢献活動の一環として設立した大学である。様々な媒体が実施する「大学ランキング」で、就職率100%は群を抜いて全国トップ。しかも、授業料ならびに入学金が私立大学としては極めて安く、学部に関しては国立大学とほぼ同額。豊田工業大学(生嶋 明学長、名古屋市天白区)。高い就職率は「トヨタの大学だから当然」といった怨嗟の声が聞こえてきそうだ。しかし、よく考えてみれば「トヨタの大学だから」という理由だけで採用するほど日本の企業は甘くない。取材して見えてきたのは、教育の質の高さだった。教育目標にある「新技術の開拓能力を有する創造的で実践的な開発型の技術者・研究者を育成する」を実践しつつ、常にワンランク上を目指している。そのあたりを中心に広報担当者に聞いた。同時に、どのように大学の利点を広報してきたのかも。(文中敬称略)

就職率100%と全国トップ

 建学の精神は、こう書いてある。〈建学の理念「研究と創造に心を致し、常に時流に先んずべし」(豊田佐吉翁遺訓)に基づき、人類共通の緊急課題に応えるべく、豊かな人間性ならびに広い学識と総合的な視野を備え、未知の課題に果敢に挑戦して先進的な研究を行い、かつ新技術の開拓能力を有する創造的で実践的な開発型の技術者・研究者を育成することを目標とする〉
 豊田工業大は、1981年、日本初の社会人大学として開学。84年、大学院修士課程設置、93年から、一般学生の受け入れを開始した。95年、大学院博士後期課程を設置した。学生数は、修士、博士課程を含めて457人。
 大学の英文略称はTTI(Toyota Technological Institute)。現在、工学部のみ、学科も先端工学基礎学科だけ。大学院は、工学研究科先端工学専攻(修士課程)、情報援用工学専攻(博士後期課程)、極限材料専攻(博士後期課程)がある。
 事務局長の渡部教行が大学を語る。「社会人大学として設立された経緯から、かつては企業での実務経験ある者のみ受入れてきました。現在は学生の大半が一般学生で、社会人学生は二割に満たない程度です。」
 専任教員一人あたりの学生数は8.7人、就職希望者の就職率は100%。いずれも群を抜く。就職先企業では意外なことに驚いた。トヨタ自動車と何らかの関係のある企業に半分強が就職するが、ホンダや日産といったトヨタのライバル会社に就職する学生も結構いるのだ。
 09年3月卒業・修了者を含む一般学生の就職実績累計をみると、一位のトヨタ自動車42名に続き、二位にホンダ31名で、日産も5名いた。
 渡部が続ける。「トヨタの創った大学ということからか、自動車を勉強したい、と入学してくる学生が結構います。自動車関係以外では、電機、機械、IT、化学といった分野の企業に行く学生が多いようです」
 同大では、一年生は全員が寮に入る。個室だが、8人がワンユニットで、いっしょに勉強したり、地元のソフトボール大会やクリーン活動に参加したり地域交流も行っている。英国や米国のカレッジのような学生生活を送っている。
 渡部は「社会人学生と高校を出たての一般学生がミックスするのは、結果的にいい方向に向かいました。成績は、入学時は一般学生のほうが高いですが、社会人は学年を経るにつれ追いつきます。寮生活には切磋琢磨があり、チームワークが生まれます。本学の歴史を創ってきたといってもいいくらいです」
 学長の生嶋は同大のHPで、大学改革について、次のように書いている。「本学は、時代の波に呑まれず、一〇年先を見据えて新しい価値の創造に向け、個性豊かな大学作りを柱に教員と事務職員が知恵と創意を尽くして大学改革に取り組んでいます。目指すところは『高度な研究・教育を基盤とする国際的に通用する大学』です」
 改革のひとつが、「先端ハイブリッド工学」。事務局長の渡部が説明する。「現在の工業を支える技術は融合的・複合的で、それがさらに加速されつつあります。従来の電気、機械などといった一つの専門に固執する姿勢では限界があり、本学では、幅広い裾野の上に自分の得意分野を追究する『ハイブリッド工学』という独自の概念を標榜して、将来、融合的・複合的な領域で活躍できる技術者・研究者の育成を進めています。」
 教育職員採用の改革では、05年8月から優秀な資質を備えた教員を確保するために、Tenure―Track制度を取り入れている。「米国のTenure制度をベースにしたもので、採用から一定期間に教育・研究能力が相応しいと認められた教員はTenure(終身雇用)の資格を取得できるというものです」(渡部)
 更に、新たな改革として、「国際産業人の育成」に向けた取組みがある。産業社会に十分に貢献する力を持ち、しかも国際的な感覚を身につけた人材を世に送り出すことを目標に、学部教育と大学院教育において理工英語教育を積極的に推進するとともに海外研修の機会を幅広く取り入れている。
 そのためには国内外の大学間連携が役立っている。同じ愛知県内にある南山大学と大学間協定を締結、広範囲な分野で交流を図っている。04年10月から単位互換制度を始めた。南山大学は外国語教育が強いことから、英語教育の充実に大いに貢献している。
 これまでに海外21大学と提携を結んでいる。このネットワークを活かして、グローバルなスケールで学生の海外インターンシップを全学規模で行なっている。すでに米国アリゾナ大学をはじめ海外の大学およびトヨタ自動車関連の海外工場などに希望する学生を送り出しているという。
 豊田工業大学シカゴ校の存在も大きい。博士後期課程情報援用工学専攻の研究領域のうち、情報基礎理論の分野を充実するため、この分野の最先端である米国に設立、5年をかけて米国の大学認証であるアクレディテーションを本年9月に取得した。「キャンパスはシカゴ大学内にあり、同大学との共同研究、単位互換がスムーズに行えるように配慮。大学院大学として、『計算基礎理論』、『計算機による学習(人工知能)』、『計算機の視覚機能』などの分野に取り組んでいます。」(渡部)
 さて、開学以来、大学広報はどのように展開してきたのだろうか。渉外広報部部長の上中健人が話す。「これまで、妥協せず、やることを、きちんとやっていればいい、という考え方がありました。しかし、ここ数年、少子化などで大学大競争がいわれるようになり、教育・研究の中身、とくに、高度な研究とそれに裏打ちされた実学重視の質の高い教育を進めていることを積極的に外にきちんと伝えるべきだという声が高まりました」
 渡部が補足する。「トヨタは世界のトヨタですが、豊田工業大学の知名度はまだまだです。知名度がなければ受験生は来てくれません。マスコミの取材にはきちんと対応し、宣伝ももっとやらないといけません。しかし、限られたリソーセスを教育研究費にかけなければならない中でどのように進めていくか課題です」
 「トヨタあっての大学という声には?」意地悪な質問には「トヨタが設立してくれて、いろんな意味で支援いただいていることは有り難い。これからも、トヨタの名前と力に恥じない存在感を高めていきたい」と渡部は爽やかに答えた。
 渡部が最後に語った。「本学には、小さいけれども本当にユニークな理工系大学として存在し続けること、そして、これからは世界の中でユニークな輝く存在となることができるように精進していきたい」豊田工業大は世界をめざす。

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