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平成21年10月 第2375号(10月7日)

高めよ 深めよ 大学広報力〈46〉 こうやって変革した43
  少人数教育に活路
  多いマスコミ出身の教員体験に基づき指導
  江戸川大学

 

 江戸川大の最寄り駅のひとつが、つくばエクスプレス(TX)の「流山おおたかの森」。都心の秋葉原駅から快速で25分、同駅からスクールバスで約5分。アクセスは、JR武蔵野線・常磐線、東武野田線などでも通学できる。
 TXの開通は、江戸川大に幸運を運んだ。入試広報課課長の杉山保憲が説明する。「つくばエクスプレスが開通するまで、通学経路によっては時間がかかりました。TXの開通によって、茨城、埼玉といった近県からの入学者が増えました。TXの開通は沿線の大学に明暗を生んだようですが、本学は明になりました」
 江戸川大は1990年、社会学部(応用社会学科、マス・コミュニケーション学科)の一学部二学科で開学。画期的なマスコミ学科の設置は大きな話題になった。06年、メディアコミュニケーション学部(マス・コミュニケーション学科、情報文化学科)を設置、二学部五学科となった。
 現在、社会学部に1400人、メディアコミュニケーション学部に630人の学生が学ぶ。06年の「二学部五学科体制」は初の改革だった。入試・広報センター長の青野丕緒メディアコミュニケーション学部教授が、この改革を語る。
 「これまでの社会学部を一段と掘り下げ、『心』の問題を考える人間心理学科と豊かな生活を演出するライフデザイン学科、それに従来からの経営社会学科を配置しました。学科間の連携を取りながらカリキュラムの一層の充実を図りました。
 さらに、『情報』についての教育や研究を深めるためメディアコミュニケーション学部を新設。マス・メディアを中心のマス・コミュニケーション学科に加え、語学力や情報システム能力を身につける情報文化学科を設けました」
 青野は、しきりに少人数教育を強調した。「入学から卒業時まで10名前後のゼミを数多く用意し、学生自らが課題を見つけ、仲間とともに取り組めるようにカリキュラムを組みました。就職についても学生の希望に添えるよう教職員が一丸となってバックアップ体制を敷いています。大学の規模が大きくないだけに、少人数教育の利点を生かしたきめ細かな教育が可能なのです」
 青野は毎日新聞出身。学長の市村はNHK。市村は1964年、東大大学院修士課程を修了後、NHKに入る。番組制作局チーフ・プロデューサー、海外企画部長、NHKエデュケーショナル社長などを経て、01年、江戸川大教授に就任した。
 市村は「教育理念は『人間陶冶(トウヤ)』。社会のなかで『人間らしい優しさをもって活動できる』人材育成がモットー。経験豊富な教授陣が学生の悩みや課題を授業や課外活動などを通じてともに考え指導しています。学生には教職員のサポートに甘えず、チャレンジするのは君ら自身だ、と常に言っています」と話している。
 同大は、市村や青野のように、マスコミ出身の教員が多い。どちらかというと、プロ好みの先生が目立つ。日本テレビのアナウンサーとして「アメリカ横断ウルトラクイズ」などを担当、現在はニッポン放送に番組を持つ小倉 淳、日刊スポーツのスポーツ記者として一時代を画した後藤新弥ら。
 新聞社やテレビ局OBだけでなく、大手広告代理店出身の先生もおり、マス・コミュニケーション学科の教員は、マスコミ出身者が70%にのぼる。また、経営社会学科には福岡ソフトバンクホークス役員になった小林 至もいる。東大野球部からプロ入りした小林は「スポーツ経済学」を講義する。
 外部の講師を招いて実施している『マスコミ塾』は常に満席だ。普段の授業も学生10人に教員一人の少人数で新聞社やテレビ局の実際の仕事を体験に基づき教える。マスコミに人材を送り出すため、座学より、演習や実習が多い。
 「東日本の大学にはマスコミ学科が少ないこともあって、東北方面からの受験者が多いのも特色です。マスコミをめざす学生が多い大学、と言うのは開学以来の伝統です。就職においては、東京だけでなく、地方のマスコミ企業も視野に入れて望むよう指導しています」(青野)
 マスコミ志望の高校生向けのイベントも手掛ける。「全国高校放送コンクール」(主催 江戸川大学、協賛 JTB、後援 ニッポン放送)は、「番組コンペティション部門」と「アナウンサーコンペティション部門」の二部門がある。
 「将来、放送界をめざす高校生にとって登竜門となるようなコンクールをめざしています。アナウンサー部門で予選を勝ち抜いたら千葉・舞浜のスタジオ・イクスピアリの本選会に出場。最優秀賞受賞者は、小倉先生のニッポン放送『小倉淳の早起きGood Day!』に出演できる特典があります」(杉山)
 大学スポーツにも力を入れている。なかでも、バスケットボールは強化種目。男子監督は元全日本女子バスケットボール監督の北原憲彦、女子はバスケットボール女子日本リーグで活躍した守屋志保が指導する。
 「高校の有望選手が全国から北原監督、守屋監督を慕って入部してくるようになりました。男子は関東リーグ三部Bに所属、女子は二部の上位で一部昇格をめざしています。サッカー部も元Jリーガーの鈴木秀生監督を迎え関東二部昇格が目標。スポーツが知名度アップにつながればいい、と期待しています」(青野)
 入試広報課は、大学正門を入ってすぐの新しい建物にある。同課の体制は七人で、入試の業務が中心だ。JRや私鉄の車内で展開する江戸川大の交通広告は評判だ。いま、「化ける」、「レールなんて、ない」というキャッチコピーが乗客の目を引きつける。
 「毎年、四月に外部のクリエーターと相談しながら決めて、六、七月から車内広告をスタートさせています。(マスコミ学科を持つだけにセンスがいい?)そう思っていただけるとうれしいですね」と杉山は笑顔を見せた。
 青野が最後に語った。「マスコミ出身の先生がマスコミ志望の学生をマンツーマンで指導している大学は少ない。マスコミの門は狭いうえ、昨今の不景気の影響もあって、就職は厳しくなっている。そうしたなか、本学の特長を外部に伝えていく広報の役割は益々、大きくなります」
 「学生の希望に応えたい」と言う言葉を青野や杉山の口から何度か聞いた。少人数教育を武器に狭き門をこじ開けようと学生と一体となった教職員の一生懸命な姿勢が印象的だった。

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