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平成21年9月 第2372号(9月2日)

新刊紹介
  輝き失った新聞
  「記者風伝」
  河谷史夫著

 牽強付会は承知のうえだが、大学の先生になる新聞記者は多く、大学関係者は一度は新聞記者の取材を受けたことがあるはず。ここで、この本を取り上げた「理由」である。
 朝日新聞の連載を書籍化した。現場で「敗戦」を見つめた毎日新聞の藤田信勝から、天声人語の名コラムニスト・朝日の深代惇郎まで、亡き24人の記者を列伝風につなぐ。感情移入してしまう記者が並ぶ。朝日新聞の門田勲。大阪編集局長のとき、オーナー夫人からの電話に「ああ、社長のおカミさんか」とやって電話をガチャン、その後、平社員に降格された。
 朝日の信夫韓一郎は、整理部が長く取材経験は少ないが、戦後の混乱期の代表取締役となる。口癖は「バカヤロウ」だったが、地方記者を大事にするなどの温かさがあった。
 退任の理由が新聞記者らしい。「自分が会社にとって必要だと自分で思ったときは、実は会社がその人物を必要としていないのだ」
 「珠玉の天声人語」が当てはまる深代惇郎。サツ回り時代のバーのママとの交流など酒と情のエピソードは何度読んでもホロリとさせられる。
 没後、「陰の女性」が現れた毎日の井上靖(作家)。新聞記者について「上のほうに気を使わずにもすむ。平記者でも平然としていられる。生まれ変わったら、もう一度新聞記者になる。そして、もう一度転職します」と言っていた。
 ドイツ文学者、池内紀の書評。〈新聞が輝いていた時代は、現実に対して等身大で反応する自由があった。組織の中の例外でいることの誇りと自信があった〉
 新聞は輝きを失い、記者は誇りと自信を喪失した。記者風伝に登場した彼らの活躍した時代から学ぶことはあるはずだ。池内に共鳴する。


 「記者風伝」
 河谷史夫著
 朝日新聞出版
 03―3545―0131
 定価1800円+税

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