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平成21年8月 第2370号(8月19日)

高めよ 深めよ 大学広報力〈41〉 こうやって変革した39
  卒業生が「広告塔」にリベラルアーツと少人数教育創立110年で広報強化
  津田塾大学

 「女子大冬の時代」などといわれて久しいが、学生の満足度において女子大のなかで圧倒的な強みを発揮するのが津田塾大学(飯野正子学長、東京都小平市)。創立者、津田梅子が設立した女子英学塾が前身。学生数2800人の一学部のみの小規模校で、理系分野もある総合大学。専門分野に偏らないリベラルアーツ教育と少人数教育が特長。少子化の影響はあるものの、受験者数はずっと安定している。就職率は毎年98%を超え、うち9割以上が総合職および専門職に就く。そうはいうものの、同大の優れた教育内容や就職率のよさを受験生や親たちに伝えなければ受験生の安定確保につながらない。外部への発信という広報分野は「お金をかけずに、工夫してやってきました」という。学生の満足度の源泉である教育内容や広報体制などを聞いた。
(文中敬称略)

学生の満足度は圧倒的

 津田塾大は、1900年、官制の良妻賢母育成の女子高等教育制度に疑問を抱いた津田梅子が、学問重視の女子高等教育機関を私学、女子英学塾として現在の千代田区に設立。1933年、津田英学塾に、43年、津田塾専門学校に改称、戦後の48年、津田塾大学に。
 69年には、まだ揺籃期にあった国際関係論というジャンルを、日本の大学として初めて国際関係学科として創設。「時代の変化に大学として敏感に動いてきた」という。現在、学芸学部の一学部で、英文学科、国際関係学科、数学科、情報科学科の四学科。
 広報・学生担当学長補佐の山口順子が大学を語る。「津田梅子は教育で最も大切なものは施設などでなく教師と学生の繋がりで、教師が自らの生き方を見せることで、自然に伝わり教えられていくものがある。だから、学校の規模が大きくなってもいけない、と言い続けました」
 学生の主体性を重んじて校歌、校章、校旗をあえて持たないのも津田梅子以来の津田塾の伝統となっている。ブランディングがブームの昨今の大学にあって珍しい。山口が続けた。
 「学則といった形式上のものより、『自ら学び、考え、行動せよ』という建学の精神を、教師から学生へ、先輩から後輩へと伝えていく女子教育を行ってきました。校章、校旗は敢えて持たないのではなく、持つ必要性を感じることなく現在に至ったようです。
 そのためか、自立志向の強い学生が多く育ち、多数の著名人を輩出してきました。映画字幕翻訳家の戸田奈津子さんやモバゲーでも有名になった南場智子さんらは、その道のパイオニアとして活躍中です」
 少人数教育は、津田梅子の教育方針でもある。ゼミやクラスは10人から20人程度で、「教員と学生が討論を重ねる教育機会を多く設けています。共通科目で市民に公開される『総合』では、学生が主体的に授業を企画運営、作家や企業人らを招いて今年で三二回目の講座を開いています」
 他大学との交流も活発だ。国際基督教大学、国立音楽大学、武蔵野美術大学、東京経済大学とは、多摩アカデミックコンソーシアム(TAC)協定を結び、単位互換制度や図書館の相互利用を実施している。
 一橋大学とも単位互換制度を設け、EUIJ(EUInstitute in Japan)東京コンソーシアムを一橋大学、国際基督教大学、東京外国語大学と締結、慶應義塾大学、一橋大学とEUSI (EU Studies Institute inTokyo)コンソーシアムを結成している。
 来年2010年に創立110周年を迎える。これに先立ち、08年4月、東京・千駄ヶ谷に新キャンパスを開設、都心への進出が実現した。財団法人津田塾会が保有する渋谷区千駄ヶ谷の土地・建物を大学に寄付したことによるものだ。
 津田塾会は、同大の同窓生らが中心となって戦後まもなく活動を開始し、国際社会で通用する英語の教育に献身した。この千駄ヶ谷キャンパスは、津田塾大の新たな教育研究発信の拠点となる。
 「この千駄ヶ谷の地に心血を注いだ同窓生のスピリットとエネルギーを継承しながら、A大学の教育・研究の推進B「オープンスクール」の開設C地域貢献事業の推進―などを行っていきたい」(山口)
 千駄ヶ谷キャンパスでは、今年4月から津田塾大学オープンスクールとして児童から社会人までの英語、小学校英語講師養成、国際機関・国際協力講座に加え、小平キャンパスと連携する、英語力・国際力・IT力向上のための学び直しプログラムや国際教養講座がスタート。来年度から同大大学院文学研究科に現職英語教員を対象にした新コース『英語教育研究コース』を開設する。
 創立110周年事業として津田梅子賞を創設。創立者津田梅子の「女性の自立と社会貢献を促す精神」を継承発展させるために、現代社会で、その精神を具体化する活動を行っている団体や個人を顕彰する。これまで外部に向けた津田梅子賞は皆無で、広報強化に乗り出したかにみえる。
 広報体制について、企画広報課長の山本真之が語る。「企画広報課は8人で、3人は入試実施部隊。残りが広報関係の仕事をしていますが、1人は110周年の事務局兼務です。学内外への大学広報と受験生向け入試広報が主な業務ですが、自己点検評価の事務局もやっています」
 最近の広報例では、昨今の経済状況に対応する特別奨学金がある。「学芸学部新入生のための財政的援助として新入生修学支援奨学金の支給を行います。対象は10年度入学者のうち、主たる家計支持者の09年の年収税込400万円未満の方で、入学金相当額を20名程度に交付します」(山本)
 「これまで、大学広報は、あまり積極的でなかったようにみえるが?」と問うと、「お金をかけた広告などを出さなかったため、派手にみえなかったのでは…。できるだけお金をかけず、(広報は)工夫してやってきました」と、山本は、こう続ける。
 「高校生エッセイコンテストを地道に手作りで行ったり、受験生にキャンパスのクリスマスツリーの写真でクリスマスカードを作って送ったり、学外進学相談会の『ご案内DM』も企画広報課の手作りです。情報が溢れるこの時代は、手法を変えていかなければ…」
 山口が補足する。「熱心な学生をしっかり教育しているので、その卒業生たちが広告塔にもなっています。全国に巣立っていった学校の教師になった同窓生はもちろん、様々な分野で活躍する卒業生たちがそれぞれのジャンルで津田塾ブランドを創っています」
 とはいうものの、創立110周年をきっかけに広報活動が積極的になっているようにみえた。「津田梅子賞も多くの人に知っていただくため記者発表も考えています」と山口。山本から送られてきたメールの最後は、こう結ばれていた。
 「世紀を越えて女性を勇気づける Imagination,Inspiration,Innovation 〈2010年 津田塾大学は 創立110周年を迎えます〉」
 「女東大」といわれた津田塾大、その広報が静から動へと転換しつつあるのは確かのようだ。

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