平成21年8月 第2370号(8月19日)
■京都大学
電通育英会
学生の何が成長しているのか?
大学生研究フォーラムを開く
京都大学高等教育研究開発推進センター(田中毎実センター長)と財団法人電通育英会(松本 宏理事長)は、去る7月25日、26日、京都市の同大学において、大学生研究フォーラム2009を開催した。学生の何が成長しているのか、何を学んでいるのかを考える場として、昨年より開催。全国から300名もの関係者が集った。
同センターと同財団は、三年サイクルで大学生のキャリア意識に関する全国調査を実施するとしており、本年が二年目に当たる。このたびのフォーラムは、同調査の報告を行なうと共に、昨年度開催のフォーラムからの課題を継承し、講演・パネルディスカッションを行なうもの。
基調講演には、キャリア研究で著名な金井壽宏神戸大学大学院経営学研究科教授が演台に立ち、経営者や研究者の言葉を引用しながら、学生の間にキャリアについて内省、展望すべきことを熱弁した。
次に、学生の「学びと成長」を大学教育・キャリア教育として実践的に考えていく上で、「対人関係」が重要なキーワードになることから、パネルディスカッションの第一部で「ボランティア・インターンシップ・大学教育改善」、第二部で「経験知と専門知との往復による融合」をテーマに、体験・実践的な学習の事例が報告された。
第一部では、加藤敏明立命館大学教授、岩井雪乃早稲田大学助教、土持ゲーリー法一弘前大学教授と、それぞれ学生が発表。海外ボランティア活動等を通じて学生が何を行い、どのように成長したのかを学生自身が発表した。司会を務めた溝上慎一京都大学准教授は、学生の何が育っていて、何が育っていないのか、を明らかにするため、「学習マトリックス」を作成。正課・正課外の位置づけ、授業形態の位置づけ、推進する授業外の活動の有無、何を学ばせようとしたか(知識・情報、技能・態度)といった項目と、実際の体験活動を対比させて学生の具体的な成長を浮かび上がらせた。中でも、「自己理解と他者認識」、「社会と学問とのつながり」への気付きは教員、学生双方が重要だと指摘した。
第二部では、中村陽一立教大学大学院教授、川上正浩大阪樟蔭女子大学准教授、高橋 進長野大学教授が、「学生の『学ぶ』を育む」をテーマにそれぞれが事例を発表。最後に、司会を務めた加藤立命館大学教授は、「どのようにしてより多くの学生に、こうした学びを広げていけるか」との問いを投げかけた。
二つの講演プログラムでは、まず、講演1として、谷内篤博文京学院大学教授と辻本雅史京都大学大学院教授がそれぞれレクチャーを行なった。谷内教授は、「プロフェショナル志向を認めはじめた日本企業の雇用システム」と題して、企業の求める人材像の変化や若年層を中心とするプロフェショナル志向の高まりについて解説。それに伴う大学のキャリア教育の在り方にも触れた。
辻本教授は、「「学びの身体性」に学ぶ―江戸の支店による現代教育の相対化」と題して、江戸時代の「手習い」と「学問(儒学)」を解説し、江戸の学びと今の教育を比較して論じた。
講演2では、浦坂純子同志社大学准教授、下村英雄労働政策研究・研修機構キャリアガイダンス部門・副主任研究員が講演。浦坂准教授は「キャリア教育と言わないキャリア形成」について、下村副主任研究員は「大学生のキャリア意識調査2007追跡調査報告書」のポイントを解説し、「未内定の学生の問題はモチベーション。現状を打開するには、学生を取り巻く(仕送りが少ない等の)社会的な制約条件を緩和する援助や、学生の心理的な無力感を打破することが重要だ」とまとめた。
最後に溝上准教授は、「社会的体験を大学にどのように活かすかが今後のテーマ」と締めくくった。