平成21年7月 第2368号(7月22日)
■高めよ 深めよ 大学広報力〈40〉 こうやって変革したe
地域貢献で生き残り
駅伝ラグビースポーツ強化で存在感
大東文化大学
教育、研究と並んで大学のレーゾンデートルに挙げられているのが地域貢献。かつて「東洋一の団地」といわれた東京・高島平団地の再生プロジェクトを手掛けるなど地域貢献では一頭地抜いているのが大東文化大学(渡部 茂学長、東京都板橋区)。「地域貢献は大学の生き残りに欠かせない」と学長の渡部は言ってのける。その大東文化大が「夢よ、もう一度」と念願していることがある。かつて、日本一に輝いたことのある駅伝、ラグビーという二大スポーツの黄金時代の再来だ。駅伝、ラグビーの二部を特別強化スポーツに指定して強化に乗り出した。「五年後を見てほしい」と渡部は自信をのぞかせる。地域、スポーツと二つの再生に取り組む大東文化大の希望に満ちた青写真、それと併走する広報体制を学長らトップに聞いた。(文中敬称略)
「大学日本一」の夢よ再び
大東文化大学は、1923年の帝国議会で創設された大東文化協会に起源を持つ。44年、大東文化学院専門学校に変更。戦後、新制大学へ改組、東京文政大学として豊島区池袋で開学。53年、大東文化大学に改称。板橋と東松山(埼玉県東松山市)、緑山(同)、信濃町(新宿区)の四つのキャンパスがある。
61年、本部が池袋から現在の板橋区高島平に移転。67年に東松山市に新校舎が完成し、すべての教養課程が東松山キャンパスに移行した。現在、文学部、外国語学部、経済学部、経営学部、法学部、国際関係学部、環境創造学部、スポーツ・健康科学部の8学部ある。
学長の渡部が大学を語る。「本学の建学の精神は、漢学を中心とした東洋の文化の研究を通じて東洋の文化を尊重・維持しつつ、西洋の文化を融合した『新しい価値の不断の創造』を目指すというものです」
「高島平再生プロジェクト」は05年から高島平団地を活性化することを目的に環境創造学部が設置した「環境創造フォーラム運営委員会」と高島平の住民が協力して行っている。この試みは、文部科学省の07年度現代GPの「地域活性化への貢献」(地元型)部門に採択された。
環境創造学科教授の貫隆夫が説明する。「多様な世代の共生が求められる大規模団地と入学生の質的・量的確保の必要に直面する大学。この両者の切実なニーズを『学生による団地住戸活用』という視点で結びつけることで、大学による地域活性化の新機軸を開拓するのがねらいです」
具体的には?「プロジェクトの柱は、団地の一定住戸を大学が一括借り上げし、東京の厳しい住居事情に苦しむ内外の学生にルームシェアリング形式で貸し付ける『多世代共住・多文化共生』事業です。大学と地元が、都市再生のための実践的学習ゾーンとして融合する新しい公共世界が生まれます」
現在、高島平団地に入居中の学生数は24名。渡部が続けた。「文部科学省の現代GPでの取組みは3年間で終ります。その後をどうするか、が肝要。現代の日本社会が直面する問題の要諦を見抜き、必要なことは必ずやり遂げる意志と知力を備えた人材、つまり環境創造型人材の育成という面から取り組んでいきたい」
駅伝、ラグビーの黄金時代―。箱根駅伝では、68年の第44回大会から連続出場、75年、76年、90年、91年と4回の総合優勝。五区、六区という山岳区間に強く、「山の大東」の異名を持つ。ラグビー部も関東大学リーグ戦優勝7回、大学選手権優勝3回。一時期、トンガ勢の選手の活躍で「無敵」といわれた。
副学長の黒柳米司が嘆く。「うちが弱くなったのでなく、周りが強くなった。有名ブランド大は推薦入学の充実などで努力してきたが、うちは過去の遺産で食ってきたところがある。体力面など他大学にひけを取らないが、位負けというか、負け癖がついてしまったようだ」
駅伝、ラグビーの強化策はこうだ。両部は大学の体育センターの下にあったが、昨年4月から理事会直轄にした。強化費、推薦入学による入部などにより、これまでより優位になった。東松山キャンパスには昨年8月、公認トラック完備の総合グラウンドを新設した。
渡部が胸を張る。「駅伝の駒沢大、ラグビーの関東学院大の両監督は『大東に追い着くのに10年かかった』といっていたそうです。駅伝もラグビーも五年後に抜き返します」。両部の黄金時代、同大受験生の数は4万8000人あったが、少子化の影響もあって現在は1万5000人だという。
先月11日、板橋キャンパスで、同大主催の「第1回太平洋諸島シンポジウム」〜人の移動と環境の変化 そして多文化共生へ〜があった。「ひとりでも多くの人が太平洋諸島に関心を持ち、抱える問題の解消につながれば…」(渡部学長)と開かれた。
第一部は「太平洋の環境問題と日本の役割」、第二部は「オセアニア・ディアスポラと多文化共生」がテーマで、外務省アジア大洋州課の石井秀明、アムステルダム大学文化人類学部のニコ・ベスニエ教授らが報告。第三部は「大東文化大学トンガ人留学生の受け入れ30年の歴史」。
三部には、ラグビー部で活躍したホポイ・タイネオ、ノフォムリ・タウモエフォラウ、飯島均(三洋電機監督)、前監督のシナリ・ラトゥ、ワテリニ・ナモア、ナタニエラ・オトら大学選手権三回優勝に導いたメンバーらが集まった。
貫は「時間効率を追求しすぎる日本人が、生き方を学ぶ相手として太平洋諸島の人々の価値観や文化は我々の貴重なお手本」、黒柳は「ラグビーの黄金時代を築いたメンバーも、夢をもう一度、と期待していました」とそれぞれ語った。
渡部がまとめた。「太平洋諸島シンポジウムも広く言えば地域貢献なのです。大学の立地した地域だけでなく、社会との関わりがあれば取組むべきです。中国にある本学の北京事務所もそうだし、地域貢献は地域の住民や子ども達に夢や希望を与えることではないでしょうか」
最後に大学広報について、渡部に尋ねた。今年4月から、これまでバラバラにやってきた入試と広報を合体して学長のもとに一元化した。「体系的、総合的な戦略的広報をねらった。財政的にもプラスになるし、相乗的効果を期待している」
また、プロバスケットチームの「レラカムイ北海道」のオフィシャルスポンサーになった。「広報として新しい試みにチャレンジした。(大学広報には)どんなチャンネルがいいか、実験でもある」
同大は、戦前から書道教育には定評があり、多くの書家や研究者を輩出している。所蔵するピーターラビットのコレクションをもとにビアトリクス・ポター資料館がある。
「書道展と、ピーターラビットを合体させた進学相談会(6月28日、石川県金沢市)は会場に入りきれない人が出るほどだった。「三つが、うまくコラボしました。広報の大事さを改めて認識しました」と渡部はうなづいた。
駅伝、ラグビーが強い時代、「大東大ブランド」は最強だった。「二つのスポーツが強いときは、応援などを通して学生の間に一体感、誇りがみなぎっていた」。渡部は、こう続けたいのではないのか。
「夢は必ず、実現させる」