平成21年7月 第2368号(7月22日)
■eラーニングが学びを変える
金沢工大が図書館国際ラウンドテーブル会議
金沢工業大学ライブラリーセンターと米国図書館・情報振興財団は、去る7月9日、10日の二日間、同大学のライブラリーセンターにおいて、「図書館・情報科学に関する国際ラウンドテーブル会議」を開催した。16回目となる今回は、米国の基幹研究図書館におけるeラーニングをテーマに専門家を招いてディスカッションを行なった。
近年、研究調査図書館の学術情報提供にとっては、IT技術が益々重要となり、大きな変革を迫るものとして認識されている。その変革の課題の一つにeラーニングがある。このたびは、米国の基幹研究図書館における「eラーニングイニシアティブ」に焦点を当てて、5名の専門家を招いて議論を行なった。一日目は各専門家からの発表、二日目はそれを踏まえ会場からの質疑応答・ディスカッションを行なった。
まず、ランドール・J・ベース・ジョージタウン大学教育・学習担当副学務部長が、近年の様々なインターネットのツールを事例にあげ、「インターネットが、これまでの知識のあり方や学習の仕方を変えつつある。特に大学関係者は、「教育すること」から「学習者の成果」にパラダイムが転換することを認識しなければならない」とデジタル学習環境が与えるインパクトを強調した。
次に、クリスティーン・L・ボーグマン・カリフォルニア大学ロサンゼルス校情報学研究科長・教授は、サイバーインフラとサイバーラーニングについて言及した。コンピュータのネットワークが作り出す新しい研究環境・学術情報基盤をサイバーインフラと呼び、このインフラを活用して学ぶことをサイバーラーニングと呼んでいる。サイバーインフラは情報のみならず、空間と時間を超えた学習者コミュニティ間の相互交流、様々な年代の話題に関する多様な素材へのアクセスの個人仕様化を支援する。学生はこうした膨大なデータの活用方法を学ぶ必要があるとした。
続いて、シンシア・ゴールデン・エデュコーズ副会長が講演。エデュコーズとは、米国の高等教育におけるITの普及・活用を図ることを目的に活動している非営利団体。2008年に策定された今後10年間の行動計画によれば、@教育及び学習、A企業管理、BITの役割の進化とリーダーシップ、Ceリサーチとeスカラーシップを重点分野としている。取り組みの一つとして、大学内でのIT関係者のリーダーシップに関する調査研究成果について触れたのち、「技術的、経済的、政治的、そして社会的な要因によって、キャンパスのITに関する新たな見解や視野が必要とされている」と締めくくった。
アン・R・ケネイ・コーネル大学図書館長は、「図書館が大学の優先事項に対して重要性を持つことを実証するにはどうしたらよいか」と疑問を投げかけ、従来のように目録に掲載されたタイトル数や貸出冊子数などの実績で報告しても意味はなく、教職員や学生が直面している課題を解決し、彼らにとって有益な図書館の介入計画を考案することに重点を置くべきだ、と主張した。
同図書館では、教職員と手を組んで研究スキルを教育の場に組み込む戦略を取っている。一部のカリキュラムにおいてこの試みは成功しており、その実例が紹介された。こうした取組を経て「図書館は、デジタル時代と現在の経済危機の両面において自らの意義を再認識する機会を得ている」とした。
最後に、チャールズ・ヘンリー・米国図書館情報振興財団会長が、「既存の組織やディシプリンでは、新しい課題に対応が出来なくなっている」と切り出し、現在の先端科学技術は4、5の既存ディシプリンを含む学際的分野になっているが、図書館や情報科学がどのように貢献していけるかが今後の挑戦すべき課題であるなどと述べた。
一日目の夜は懇親会となり、参加者と発表者が大いに議論した。また、二日目は講師の発表を元にIT、図書館、教育の三テーマごとに質疑発表が行なわれた。「ITリーダーの教育はどうしているか」、「10年後の図書館と図書館員はどうなっているか」等の質問が出され、熱心な情報交換が行なわれた。