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平成21年7月 第2367号(7月15日)

新刊紹介
  学力格差で国を動かす
  @教育と平等A
  苅谷 剛彦 著

 副題についた「大衆教育社会」は、かつて著者が提案した社会である。〈教育の大衆的拡大を基盤に形成された大衆社会〉。
 著者は10年前、「大衆教育社会のゆくえは、社会の不平等を残しながらも、エリートのいない、チェック機能も十分働かない社会を招来するのではないか」(中央公論、99年8月号)と「予言」した。
 核心が描かれているのは、四章「『面の平等』と知られざる革命」。〈「面の平等」を実現するための、その画竜点睛にあたる教育の標準化の最後の一手は、国の主導によっていたわけではなかった〉と直球を投げ込む。
 〈面の平等化を進めた原動力となる基底の形成は、人口変動や経済成長に助けられた「静かな革命」の結果だった。それが大衆教育社会を生み出す礎だった〉と締める。「面の平等」と「静かな革命」という言葉と論理は説得力がある。
 著者は「家庭の所得格差が子どもの学力格差を生んでいる」と主張してきた。小林雅之、吉川徹、広井良典らの学者も、ほぼ同様な主張を繰り広げてきた。
 いわゆる「御用学者」と一線を画す彼らがこのほど、国を動かした。彼らに背中を押されて文部科学省の有識者懇談会が発足。同懇談会は家庭の経済力で子どもの教育格差が生じるのを防ぐのが目的だ。
 同懇談会は報告書をまとめ、幼児教育の無償化や、低所得者層について教材費や高校の入学金を援助するなどの具体策を提言した。画期的なことである。
 著者は、四半世紀〈そのおもしろさに惹かれた教育社会学〉を「卒業」すると「あとがき」に記した。そして、〈教育への関心を捨てるわけではない〉とそっと言った。これは読者の祈りにも似た願いだ。

 「教育と平等 大衆教育社会はいかに生成したか」
 苅谷剛彦著
 中公新書
 03―3563―3668
 定価840円+税

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