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平成21年7月 第2366号(7月8日)

新刊紹介
  骨太のドラマは必見
  「大学の誕生 下」
  天野 郁夫 著

 下巻では、数を増す帝国大学、序列化する専門学校といった高等教育機関のダイナミックな動きを描く。上巻から軟着陸しているので前半は読みやすい。
 大正7年の大学令の成立までの文部官僚と帝大派などとの暗闘、それによって誕生した大学。その大学の立ち位置は、いまも当時の残滓を引きずっているようにみえる。
 そのあたりを「あとがき」で著者は、こう表現する。〈大学・学校間の序列構造は、半世紀以上たったいまも、大学間の格差構造として継承され、拡大再生産され続けている〉
 拡大再生産され続けているのは、格差構造だけではない。次の二つもそうだ。
 〈大正7年時点で官公私立の在籍者の7割が私学になるなど「私学の時代」になった。しかし、「質」は問題含みで、多くが経営的に脆弱な基盤の上に立っていた〉
 〈昭和16年時点での大学数46校と専門学校数220校を比べるとき、わが国の高等教育システムは特異な構造のもとに発展してきたことがわかる〉
 興味深かったのは、大正3年に発行された進学案内書「中学卒業就学顧問」(実業之日本社編)。いわば、大正版リクルート誌。
 〈帝大出身の、万事にかけて都合のいいことは勿論で、官界に出んとするならば、どうしても帝大を出て…〉とあるのは正鵠を射ているが、早慶など主な私大の評判記は古びてなくて面白い。読んでのお楽しみ。
 「あとがき」はこう続く。〈いま、(大学は)明治から数えれば第三の大きな改革の渦中にある。いまの問題もルーツは、明治から大正初期にかけての「大学誕生」の時代に求めることができる〉
 大学人たるもの、この現代につながる「近代日本と大学誕生」の骨太のドラマは必見である。改めて、著者の力業を称えたい。

 「大学の誕生 下」
 天野郁夫著
 中公新書
 03―3563―3668
 定価980円+税

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